『SS』ごちゃまぜ恋愛症候群 15

15−α

教室に戻った俺に、衝撃的とも言える光景が飛び込んできた。あの涼宮ハルヒが、だ。
笑っている。いや笑うくらいならハルヒだってするさ、そうじゃない。
多分クラスの連中は、谷口だって見た事がないかもしれない。
あれだけの笑顔のハルヒを。それはSOS団の活動中でもそうそうお目にかかれない、俺しか見たことがないはずの笑顔だったのだ。
頭に一瞬で血が昇った。電話の相手? 決まってんだろうよ!
キョン、ちょっと………」
「何も言うな国木田、俺は少々頭痛がするようなんだ」
「そう。それならいいよ」
谷口の阿呆が口を開けっ放しでしゃべれないのが幸いだ。もしあいつが何か言ったら俺は自分に芽生えた暴力的衝動を抑え切れんかもしれない。
ズカズカと聞こえるように歩いて自分の席に。くそっ! なんでこいつが後ろにいやがるんだと思うとイライラしてくる。


ガタッ!!


クラス中に響くような音で俺は席に着いた。ハルヒが迷惑そうな目で一瞬こちらを睨む。すいませんね、お邪魔しまして!
もちろん謝る気などさらさらないので無視して正面を向いた。
「うん、そうそう! あ、時間よね、ゴメン。じゃ、またね!!」
またね、かよ。しかもお前が相手の時間を気にしてゴメンときたか。そうかい、楽しそうでなによりだ。
分からん。なんだこの腹の底から湧き上がってくる怒りとも苛立ちとも言える感情は?!
俺は午前中のハルヒのように机に伏せるしかなかった。クラスメイトが何かざわついている。そりゃそうだ、ハルヒがあれだけクラスで楽しそうに話しているのを見れるなんてないだろうからな。
周囲にいた女子が何人かハルヒに話したそうだったが、チャイムがそれを阻止した。もしあいつらがハルヒの席に寄ってきたら、俺はその場から速やかに消え去るだろう。あいつが話をするとも思えんが、万が一会話するようなら聞く耳がどうにかなりそうだ。
とにかくチャイムに助けられた気がする。そのまま俺は机に伏せたまま授業を受けることにした。とてもじゃないが起きて授業を聞く気になれん。
するとしばらくして背中に小さな痛みを感じる。ハルヒのシャーペンだろう、さっきのことで何か言いたいのかもしれんが無視する。
俺からすればかなりの時間、ハルヒのシャーペン攻撃は続いたが俺は無視し続けた。別に俺なんか相手にしなくても、お前には楽しい話し相手がいるだろうがよ。
「……………ねえ?」
無視。
キョンってば!!」
知るか。
「………………もういいわよ…………」
そう言うとハルヒも机に伏せてしまった。教師連中はこの最後列の寝ている二人をどう思ってるのかね? 何も言ってこないのは諦められてるからなのかもしれない。
とにかく俺はハルヒと話をするどころではなくなっていた。あんな笑顔で話すハルヒを、俺達以外と話すハルヒを見てしまったからな。
授業を苦痛に感じ、後ろの席のオーラを不快に感じながらも、俺は放課後にハルヒと話をする気にもなれなかったんだ。








15−β

クラスに戻ると機嫌の良さそうなハルヒコが目に入った。人の気持ちも知らないで笑ってるあいつに苛立ちを覚える。
こいつが機嫌が良ければあいつが不機嫌な顔になるのかと思うと、あたしの中の何かが思い切り怒鳴りつけたい衝動にすら駆られてくる。
キョン子、どうなってんの?」
「知らないわよ、あたしはあいつの保護者じゃないもん!」
国木田につい八つ当たりのように言ってしまった。
「うん、そうなんだけど………」
「こらキョン子、国木田泣かせてどうすんのよ?」
「泣いてないって、谷口」
ああ漫才はいいから。そんなことよりあの馬鹿がご機嫌なのはあたしのせいでもないから。
あたしは本当に嫌々ながらも自分の席に着いた。なんでこいつの前にあたしは座らなきゃいけないんだろ?
座ってからそのまま机に伏せた。なんだかハルヒコと話なんかしたくないし。
「おいキョン子?」
あーもう、話しかけないでよ。
「おーい、」
こら、ポニーテールを引っ張るな! 痛い!
「んだよ、無視すんなよ」
授業中だ、今は。あたしは機嫌悪いの!
「……………何なんだよ、ったく」
こっちのセリフよ、それは。せっかく綺麗に髪型整えてるのに。
……………見て欲しいな、あいつに。
ポニーテールを見て真っ赤な顔をするキョンを思い出してつい笑ったあたしは、その後ろで不機嫌になったハルヒコのことなんか考えてもいなかった。






15−α2

まあ俺の個人的意見など何の意味もなく放課後を迎えることになるのだが、幸いと言っていいのか、俺は掃除当番でハルヒと別行動となった。
部室には行かねばならないのだろうが、ハルヒと一緒になどという気にはなれなくてな。あいつは何か言いたそうだったが、それでも一人で部室に行ってしまった。
適当に箒を動かしながら、俺は冷静になろうと努めた。このままではハルヒと話どころか喧嘩しか出来そうにない。
大体何で俺があいつのことでこんなに腹を立てねばならんのだ? それだけでも逆に立腹ものなのだが。
頭では理解しているんだ、俺が話さねば世界は融合だか消失だかしてしまうということは。
だが、ハルヒが恐らくであろうあの野郎と話して笑っているという事実が俺にハルヒと話す機会を奪っていく。
これさえもハルヒが望んでいるっていうなら、もう滅んじまえ世界。俺はそこまで自分というものを殺さないと生きていけないのかよ?!
いかん、思考が悪い方向でしかループしていないのが分かるのに歯止めが利かない。
結局冷静になれたのか分からないままに掃除を終えた俺は足どりも重くSOS団の活動に赴かねばならなくなったのだ。






15−β2

ハルヒコの機嫌が乱高下するのがあたしのせいだとしても、それはあいつが悪いのであって、あたしは何もしていない。
そう、だからこそ古泉はハルヒコの機嫌を取ろうとハルヒの電話番号を教えたりしたんだから。
誰にしているのか分からない言い訳を頭の中で繰り返しながら、あたしは掃除当番として箒をおざなりに動かしていた。
いつの間にかご機嫌ナナメになっていたハルヒコは無言で部室に行っている。あたしとしても好都合だった、少しは落ち着く時間が欲しいわよ。
どうしよう、部室に行くのもあんまり気が乗らない。今までこんな事思ったこともなかったのに。
それでも習慣とは恐ろしいもので、あたしの足は自然と部室に向かっていた。
頭の中で古泉の言葉が蘇る。そう、別にあたしじゃなくてもハルヒコが満足ならいいんじゃないの?
それが例え危険な誘惑であっても。
気が付けばあたしは携帯を手にしていた。メモリを見れば間抜けなあだ名が一つある。



かけちゃおうか?



いや、あいつも部室にいるはずね。あたしは携帯を閉じた。
「はあ…………」
なにやってんだろ、あたし。結局何一つ頭が整理できないままに、あたしはSOS団に行かなければならなくなった。









そして事態は動きだす。俺にとって悪い方向で。
そして事態は動き出す。あたしはそれを望んでいるの?