『SS』ごちゃまぜ恋愛症候群 6

6−α

そう、すっかり失念していたのだ。こいつらはSOS団なのだと。そして悲しいかなSOS団の行動パターンはワンパターンの極地なのだった。
こうして駅前に集まった俺達なのだが、なんとか上手く誤魔化さなくては。と、チラリと横目でキョン子を見れば、そこは俺と同じ思考パターンを持つ女だ。
「分かった! 分かったからとっとと移動するわよ!!」
と言いながら先頭を切って歩こうとしている。これは俺もなんとかせねば。
「あー、すまん。というか時間はまだあったと思うんだが」
向こうが去るまでこちらは時間稼ぎだ、俺達の連携さえ上手く行けば。
「なに言ってんの! SOS団では5分前行動なんて当たり前なのよ?! それにギリギリだなんて団員としての自覚が足りないわ!」
おい、いつからSOS団はそんなに規律正しい団体と化したんだ? などと思いながらも横目を使えば一人騒がしい男を除いて、キョン子は誘導には成功しているようだ。段々と遠ざかる奴らにハルヒも気付いていないようだしな、まあ待ち合わせ場所としてここはよく使われるのもあるだろうが。
もう少し時間を作らねば、ということで俺は軽くごねてみる。
「しかしだな、5分前行動というのなら確かに俺は5分前には着いている。それなら罰金くらいは免除されてしかるべきじゃないか?」
するとハルヒはフフンッとばかりに胸を張り、
「馬鹿ねえ、5分前に行動しようと思ったら、その5分前には到着しておかないとなにも出来ないのよ! つまりあんたは団体行動の基本中の基本を守れていない訳。そんなあんたに罰金くらいで済ませてあげようなんていう心の広い団長がいることを感謝してもらわなきゃ!」
結局俺に奢らせたいだけの屁理屈なのだが、実際に最後に来ているのは俺なわけで。
「いや、実は僕が来たのが10分前ですからギリギリだった訳ですね。危ないところでした」
という古泉の言葉に我が意を得たとばかりに、
「そうよ! 古泉くんだって危ないわね、キョンみたいにならないように気をつけなさい!」
などと抜かすハルヒ。古泉を恭しく頭をさげ、
「肝に銘じておきます」
とか言いやがる。その姿を見て満足げなハルヒが、
「さあ、キョンのせいで無駄に使った時間を取り返すわよ! さっそく今日の活動内容を発表するわ、もちろんキョンの奢りでね!!」
そう言いながらズンズンと先頭を歩くハルヒ。朝比奈さんがそれに続き、長門が静かに後を追う。残った古泉に、
「すいません、なにかご迷惑をおかけしたみたいで」
と言われたが、まあ許してやる。
「おや、もう少し何か言われる覚悟をしていたのですが。なんとも諦めのよいあなたというのも不安になってきますね」
何がだよ、これもハルヒが望んでるってんだろ? 理不尽極まりないがそれでハルヒの機嫌が良くなるなら仕方ないさ。
「そう思っていただけるなら幸いです。まあいつかは涼宮さんの気持ちも変化が出てくるかもしれませんし」
そうなってくれることを祈るよ。
なによりもあいつらと引き離せたから今日のところは良しとせざるを得ないのさ。
そう思いながらハルヒに怒鳴られる前に古泉と二人で先を歩く女性陣を追う。
しかしここにきてもまだ俺は抜けていたんだなあ。
そうだ、俺たちはSOS団だったんだ。








6−β

ブツクサとうるさいハルヒコを宥めながら、あたし達はいつもの喫茶店へ。キョンは時間稼ぎしてくれてるようだ、さすがはあたしと同じ思考回路なだけはある。
「まったく、人を待たせたあげくにさっさと移動しやがって。これは重要な規則違反だぞ? ったく、どんな罰を与えてやろうか」
まだ言うか、こいつは。大体どんな罰ゲームをさせられるやら。
「んー? バニーはどうだ? あれは最高だったが」
絶対にやめろ! なんだ、あたしのコンプレックスをそんなにえぐりたいのか?!
「まあまあ、それならここの支払いをキョン子さんに持ってもらうっていうのはどうでしょう?」
フォローのつもりか、コンプレックスに無縁そうなバニーならお前がやれと言いたくなる古泉がハルヒコに話しかける。しかしそれあたしの財布には大ダメージだから!
しかしハルヒコはつまらなそうに、
「ばーか、女に奢られて喜ぶ俺かよ。そんくらいの金がないと思われるのもやだかんな」
ストローの端を噛んで呟くように言った。行儀は悪いが、そういうところはハルヒコは徹底している。
「まあおいおい考えるか。それよか今日のクジなんだけどさ、」
上手く話も逸らせていつものあたし達の会話になろうかという時に、タイミングよく入り口のドアが開いた。
つい顔を向けてしまって愕然とする。ああそうか、こいつらもSOS団だったんだ。
そこには駅前で見た面々が揃っていた、先頭の黄色いカチューシャの女の子が間違いなくハルヒって子なんだろう。
「あら? いつもの席空いてないのね」
そりゃあんたらにとってもいつもの席だろうけど、あたし達のとってもいつもの席だもんね。後ろにいたキョンが慌てて、
「なあ、それならたまには違うとこに行かないか? なに、どうせ奢るんだから俺だって変化が欲しいと思っていたところだ」
なに、あいつ奢らされてんの? はあ、あっちのハルヒとやらはとんだ暴君みたいね、うん。まあこっちのハルヒコだって負けてはないけど。
でもハルヒは何を拘っているのか、
「まあいいわ、それじゃその後ろ空いてるからそこにしましょう」
と言ってあたし達の後ろの席へと移動し始めたのである。キョンがまだなにか言おうとしたけど、これ以上は流石にまずいと感じたのかおとなしく後に続く。賢明な判断だぞ、これ以上は多分不機嫌にしかならない。ハルヒハルヒコなら間違いない。
ハルヒを先頭に、多分朝比奈さん(本当に天使のような可愛さだった)、長門(確かに小柄だ、しかも眼鏡はしてないんだ)、古泉(爽やかに笑ってるけどハンサムなのは間違いないわね)、キョンが続く。
そのキョンとすれ違った瞬間、
『すまん、俺も気付かなかった』
『いいわよ、あたしもお互い様だから』
とアイコンタクトを済ませたんだけど、これが失敗だった。あの涼宮ハルヒコと涼宮ハルヒがそんなあたし達を見逃すはずはなかったのだ、はあ……
もう一つのSOS団があたし達の後ろの席に座る。また上手い事キョンがあたしの真後ろってのがなんとも言えない。つまりはキョンの声がまる聞こえってことなのね。
そして向こうのハルヒが座った途端にこう切り出した。






6−α2

「ところでさっきから気になってんだけど、あんたの後ろの子ってあんたの何なの?」
うわ、なんという直球。というかそのセリフはなんだ、俺がなにか後ろめたい事をしていたかのようじゃねえか?
「いいから! さっさと答えなさいよ!!」
と言われてなんと答えればいいんだ? まさか「いや、これは多分別の世界の俺なんだ」などと言えば話がまともに進むわけが無い。それよりもそんなに大きな声をだすなハルヒ、まるっきり浮気現場を押さえられた男のような目で周囲に見られてる俺の立場はどうなるんだ?
助けを求め……………えー、朝比奈さん泣きそうにならないで下さい、俺は無実です。長門、お前なら分かってるだろ? そんなお前が何故絶対零度の瞳で俺を睨んでるのか教えてくれ。古泉、てめえここに来て知らん顔すんじゃねえ。
あー、とも、うー、ともつかない言葉しか口に出てこない俺に助け船を出してくれたのは意外すぎる人物だった。



6−β2

キョンくん? 久しぶり! いやー、もしかしたらそうかなって思ってたんだけどやっぱりそうだったのねー」
とっさにキョンに話しかけてしまった。いや、なんというか自分が責められる姿がなんとも可哀想というか情けないぞ、キョン
「へ? あ、あの………」
アホか、話を合わせなさいよ。
「ほら、従兄弟の、」
「ああ!! そうだ! ああ久しぶりだな、まさかこんなところであえるなんてな!」
やっと気付いたか、しかしなんという大根っぷりだ。あたし、こんなのかしら?
「おいキョン子! お前従兄弟とかいたのか?!」
しまった、今度はこっちか! ハルヒコがあたしに詰め寄るように席から立ち上がる。
助けを求め……………朝比奈さんはキョトンとしてるから無理、長門は分かってるはずなのに無表情、古泉、興味深そうに笑うな。
ええと、どうしよう…………………? 




6−α3

「それならあたし達に早く紹介しなさいよ、馬鹿キョン!!」
あのなあ、仮にも身内がいたところで馬鹿と言われて紹介する奴はいないと思うぞ?
しかしキョン子が言い出したのだ、ここで否定する事も出来ない。何よりも相手側の席でキョン子に掴みかかりそうな黄色いヘアバンド(恐らくこいつがハルヒコだろう)から自分を守らねばならんのだ。
「わかったよ、俺の従兄弟で、
キョン子ね?!」
いやそんなアホなあだ名で呼んでやるなよ。
「だってそっちの人がそう呼んでたじゃない」
ああそうだな、まったくどっちの世界でもハルヒってやつは。
「なんだ、そっちの奴はキョンっていうのか? なんというか従兄弟同士で変わってんな」
うわ、ハルヒコにまで言われた。というか一番言われたくない奴らに変わってるとか言われてる。
そのままなし崩し的に俺はSOS団同士の紹介という現象を見せ付けられたのだ。よかったなハルヒ、これ以上不思議なことがあるならもう俺の許容範囲を超えているぞ。
ということで、こんな紹介だったんだが誰が何と言ったのかは分かってもらえると思う。ちなみに俺とキョン子は何故か並んでそれを見ていた。なんでも紹介した責任者だそうだが誰もそんなもんになりたくはない。
涼宮ハルヒよ、よろしく!」
涼宮ハルヒコだ、こっちこそよろしくな!」
といって握手までしていたんだが、なんだこの妙な気分は? てっきり言い争いにでもなるかと思ってたのに。というかあのハルヒが初対面の男と握手するなんて思わないじゃないか?
横のキョン子も呆れた顔をしている。ん?
「あんた何で眉間に皺が寄ってんの?」
あれだ、この後の苦労を考えるとな。
「ふーん…………」
そういうとキョン子は俺から顔を背けた。こいつも苦労するんだろうな。その後は、
朝比奈みくるです。よろしくお願いします」
「朝比奈みつるです、こ、こちらこそ」
どうやら男の朝比奈さんの方が引っ込み思案らしいな。
「人見知りするらしいわよ」
そんな人がなんで派遣されてんだ、未来。まあ朝比奈さんもどちらかといえばそのタイプだが、ハルヒのおかげか元々なのか人付き合いは上手いタイプだと思う。
「よく見てるわね」
そりゃ朝比奈さんだからな。
「ふーん……………」
なんだ? 取替えなら拒否するぞ。
古泉一樹と申します」
「古泉一姫です、以後お見知りおきを」
まあなんだ? あいつらが見合いした方が良かったんじゃねえか?
「同感ね、完全にお互いを牽制してるわ」
そうだな、しかし完璧なほどの美男美女のカップルにしか見えん。悔しいが女になっても素材がいいと美人にしかならないんだな。
「どうせあたしは素材が悪いわよ」
それを言うな、それは俺へのダメージにもなるんだからな。それにお前にはお前の良さってのがあるさ。
「そ、そう?」
そうじゃないと俺も悲しいことになるじゃないか。
「そうね…………」
なんだよ、お互いこれ以上を望んだって良くはならないんだから人間諦めが肝心なのさ。で、最後は、
「………………」
「………………」
おーい、お前らは通じ合うかもしれんが何か話せよ。
長門有希第二次世界大戦中の日本軍戦艦の長門有機生命体の有に希望の希」
長門有希山口県長門市長門に有料駐車場の有に希望の希」
あ、男の長門は同じ漢字で「ゆうき」なのか。しかしお前ら、もうちょっとマシな紹介はできんのか?
「希望の希は一緒なのね」
そこかよ。
とにかく賑やかな自己紹介も終わり、俺達は席を挟んで歓談しているんだが、キョン子の機嫌が悪くなってる気がするのは何故だ?




6−β3

「そう! あんた達もやってんだ、不思議探索!」
ハルヒの大声が店内に響き渡る。
「おう! 奇遇だな、こんなとこで同じ事考える奴に会うなんてな!」
奇遇じゃないわよ、多分。あんた達のどっちが原因かはわかんないけど。
「それなら、」
あ、嫌な予感。
「今日の不思議探索は合同でやるぜ!!」
やっぱりそうなるのね。やれやれと肩をすくめたらキョンとまったく同じポーズで目が合った。つい顔を背ける、なんか向こうのSOS団の話をしてるあいつが楽しそうだったから。
というか、ハルヒに朝比奈さんに長門があんなに美人揃いなんて思わなかったし。いやこっちのハルヒコ、朝比奈さん、長門もそれぞれ美形なんだからそれは分かってたけど。
それにしたってキョンの奴の顔ったらって、えーと、あたしが同じ立場ならあんな顔してるのかしら?
なんだろう、このもどかしい気持ちは? というあたしが不安定な気分に陥りそうになっていたら、いつのまにかクジが出来ていた。
「さあ、引けよキョン子。3組に分かれるんだからな!」
え? なんで、
「なんで3組なんだ? 人数的にはえらくキリが悪いんだが」
あたしが聞くよりも先にキョンハルヒコに問いかける。するとそれに何故かハルヒが答えて、
「5組とか4組だと後で集合するのが大変でしょ? だからといって2組ならいつもと変わんないし。それならこれが一番効率的よね」
と言ってハルヒコを見ると、よくぞ言ってくれたとばかりに頷くハルヒコ。何様だ、お前は。
「そうかよ」
そう言ってキョンは黙ってしまった。が、あたしには分かる。見る見るうちに機嫌が悪くなっていってるのが。
「なんでお前が答えてんだ…………」
と呟くのまで分かるんだからね。そんなにハルヒコに答えさせたかったのかしら? というよりもハルヒが答えたのが気に入らなかった?
む、また頭の中に霞がかかるような感じだ。あたしも黙ってクジを引いた。なんだかイラッとする。
おまけにクジを引くキョンが女の長門と視線をチラッとだけど交わしたのも気に食わない。なにか細工するのは分かるのよ、あたしも長門に頼んだ事は何回もあるから。
それならあたしにだって何か一言あってもいいんじゃない? そういうとこは同じ人間のはずなのにデリカシーがないわね。
いや、事態の収拾を考えたらあたしだって長門とコンタクトを取らなきゃいけなかったはずなのに、何やってんだあたしは?!
あたしは何か取り残されそうな気分になった。キョンの方があたしよりしっかりしてるのかな?
あたしがついキョンを見ると、
『大丈夫だ、なんとかなるさ』
と言われた気がした。う、見透かされてる。あたしは思わず俯いてしまったのだが、多分キョンは不思議そうな顔してるわね。
そんなこんなでクジの結果、組み合わせはこうなったのだった。
ハルヒコ、ハルヒ、古泉。
キョン長門長門(♀)
あたし、朝比奈さん、朝比奈さん(♀)、古泉(♂)
なんというか、ハルヒコとハルヒが一緒というのも不安だし、長門が二人ともキョンと一緒になるとは思わなかった。これはあたしのミスだ、せめてこっちの長門とコンタクトを取るべきだったわ。
とにかく朝比奈さん(♀)と古泉(♂)が初対面だ。朝比奈さんがああだから、あたしがなんとかしないと。
そう思っていたらキョンハルヒコに話しかけた。何言っても組み合わせは変わらないと思うけど。
「あー、すまんが全員分は払えないんだが。そっちはそっちでなんとかしてくれないもんだろうか?」
ああ、自分ながら情けない。
「このアホキョン! SOS団の恥だわ!」
「はっはっは、まあ気にすんなって。俺たちは自分の分は自分で払う、これが自立自主がモットーの俺達の掟だ!」
それであたしは奢ったこともないかわりに男の子がこれだけいるのに奢られたこともないわけよ。
それでもキョンは少しだけ感心した顔で、
「どこかの団長に聞かせてやりたいもんだね」
なんて言うもんだから、
「あーら? どこの団長かしら、そんな横暴な団長様は?」
などとハルヒに怖い顔して迫られるのよ。自業自得というか、一言多いわよ。
それがいつものやりとりなのか、向こうのSOS団は苦笑しているだけ(1名無関心)
何かそれもムッとしたんだけど、あたしはそんなに自己愛が強かったのかしら?少なくとも目の前の自分にはそんな感じはなさそうなのに。







兎にも角にも事態は動き出したわけである。俺はどうすればいいんだ?
とにかく事態は動き出してしまった。あたしはどうしたらいいんだろう?