『SS』ごちゃまぜ恋愛症候群 2

2−α

そこにいたのは間違いなく初対面の女だ。俺と年は近いのだろうが、こんなところまで来るなんざ余程いいご身分と見える。
その割には随分と不本意そうな面をしているが、まあ俺が同じ立場ならそんな顔しかできないだろう。
「いやいや、大変お待たせいたしました」
などと向こうの男性が言うのに合わせるように、
「いえこちらこそ」
などと言って親父とお袋が立って出迎えたので、俺も慌てて立ち上がる。そうして向かい合った家族なのであるが、どうにもおかしい。
どこが? と問われれば返答に窮するのだが、どうにもウチの両親と相手の両親が他人に思えないのだ。なんだこの既視感は。
そう思って相手の女を見てみれば、これは似ている人物が見当もつかない。精一杯背伸びをした印象しか与えない正装はブラウスの首元が窮屈そうだ。
眠たげな目に不機嫌そうな口元。どこをどう切り取っても普通の顔立ちである。
唯一俺の目を引くのはその髪形くらいなものか。別に俺の好みを伝えた訳ではあるまいが、そいつは見事なポニーテールだったのだ。
まあ嫌々ながらに参加させられた見合いなんだ、このくらいの役得はあっても損はないだろう。
くだらない事を考えているとお袋に袖を引かれる。なんだ? と思うもんでもなく、俺は自己紹介をさせられた。その時に目の前のポニーテールに妙な顔をされた。
なんだよ、人の名前がそんなにおかしいか? と少々不快な気分になりかけた俺だったが、その後に女が自分の名前を告げた時には俺が妙な顔をしなければならなくなった。
なんだ? その俺そっくりな名前は?!
「そうですか、そちらのお名前もそう書かれるんですか」
「いやー、奇遇ですねえ」
子供の名前が似ていることの不思議さすらネタになるこの場で、俺は何故だか嫌な予感しか沸いてこなかった。奇遇で済ませていいのか、これ?
目の前の女はそんな俺の気持ちも知ることはないだろうが、多分俺がしているのと同じ様な不審な顔をしていた。
いや、多分こいつは俺と同じことを考えている。
なんとなくだが、俺はそう思ってしまったのだった。






2−β

そこにいたのは間違いなく初対面の男だ。あたしと年は近いんだろうけど、こんなとこまで来るんだから余程いいご身分なんでしょうね。
その割には随分と不本意そうな顔をしてるけど、まああたしが同じ立場ならそんな顔しかできないわね。
「いやいや、大変お待たせいたしました」
などとお父さんが言うのに合わせるように、
「いえこちらこそ」
などと言って向こうのご両親が立って出迎えてくれたので、あたしも慌てて頭を下げる。そうして向かい合った家族なんだけど、どうにもおかしい。
どこが? と問われれば返答に窮するんだけど、どうにもウチの両親と相手の両親が他人に思えないのよ。なんなのこの既視感は。
そう思って相手の男を見てみれば、これは似ている人物が検討もつかない。精一杯背伸びした印象しか与えない正装はネクタイを締めた首元が窮屈そうね。
眠たげな目に不機嫌そうな口元。どこをどう切り取っても普通の顔立ちにしか見えないわね。
なにか特徴と言われてもピンとこないけど。なにか髪形を見てるような気もするけど、そんなにポニーテールが珍しいのかしら?
まあ嫌々さがらに参加させられた見合いだから、そのくらいの視線には我慢しないと多分駄目なんでしょうね。
くだらない事を考えるていたらお母さんに袖を引かれる。なに? と思うものでもなく、相手が自己紹介をした。その名前があまりにもあたしの名前とそっくりなものだから、つい妙な気分になってしまった。
なんなの? 偶然にしては出来すぎね、と少々不思議な気分になりかけたあたしだったが、その後自分が自己紹介した時には相手が妙な顔をしていたのが当たり前とはいえおかしなものね。
なによ? そのあたしそっくりな名前は?!
「そうですか、そちらのお名前もそう書かれるんですか」
「いやー、奇遇ですねえ」
子供の名前が似ていることの不思議さすらネタになるこの場で、あたしは何故だか嫌な予感しか沸いてこなかった。奇遇で済ませていいのかしら、これ?
目の前の男はそんなあたしの気持ちなど知る由もないだろうけど、多分あたしがしているような不審な顔をしていた。
いや、恐らくこいつはあたしと同じ事を考えている。
なんとなくなんだけど、あたしはそう思ってしまったのだった。






それはまあ当たっていて外れてもいた。この後まだまだ混乱は続いていくのである。
それは二人で話すことによって始まった。