『SS』ごちゃまぜ恋愛症候群

1−α

憂鬱である。冒頭から憂鬱なのが申し訳が無いほどの憂鬱なのである。空を見れば輝くほどの晴天でありながら、俺の心は憂鬱という言葉で占められ続けているのであるのだよ。
それは俺が学校の制服でも滅多に締めないほどガッチリと俺の首を締め付けているネクタイも原因とも言えるし、そのネクタイを締めねばならん衣装としてのスーツの堅苦しさも如何ともし難いものがある。
しかも俺はこの堅苦しい衣装を休日の昼日中から纏わねばならず、その原因を作った両親も俺の傍らであからさまなほどに作り笑いを浮かべて座っている。
そうだ、俺はスーツを着て両親に挟まれて座っている状況な訳だ。おまけに座っている場所はとあるホテルの豪奢な1室ときたものだ。
少なくとも我が家の金銭的事情でこのようなホテルに出入りできるほどの余裕があるはずもないのだが、これは両親の力でなく何者かのセッテイングである。ということは高校生以前の俺でも理解が出来る話なのであるからして、高校生の俺は当然理解できてしまうのだ。
つまりはウチの家族はとある事情によりこのホテルに招待されているのであり、妹が居ないのは今回の件では完全に部外者であるからだ。出来れば俺もそうありたかったのだが、なんと今回はまったくあずかり知らぬところで俺が主役となってしまっていた。
「そろそろ来られるから背筋を伸ばしなさい」
などと母親に言われるまでもなく、このスーツのせいで俺の背筋は定規を背中に入れられているように伸びているつもりなのだが。とりあえず次の機会がいつ来るか分からんので背伸びだけはしておく。
やれやれだ、これも親孝行というのか家族サービスと言えるのかね。


昨夜、いきなり父親から自分の見合いを告げられた息子は反論の余地もないままに母親に早朝から叩き起こされ、制服でもないのにネクタイで絞殺されそうになりながらも一生ご厄介にならなさそうなホテルの一室にいるんだな。
親父の都合でいちいち駆り立てられたくはないものだが、被保護下にある身としては唯々諾々と従うしかないのが学費や食費、光熱費を出していただいているお礼だと自分を納得させるしかないのである。
まあ何を言おうが小学校高学年であるはずの妹の、
「うん、一人でちゃんとお留守番するね」
という言葉に一抹の不安さえ覚える俺がこっそりとミヨキチを呼ぶように言ったあとからは、もはや俺は操り人形のごとく両親の言う事にイエスとしか言えなくなったのだが。
古泉、お前は凄いぞ。肉親にすらイエスと言い続けるのはなかなか苦痛な思春期真っ盛りの少年が、あの傍若無人な同級生の女の言う事にイエスとしか言わないんだからな。
などと俺が超能力者の精神力の強靭さに感嘆の思いすら抱きかけて、それを慌てて否定した時に、

ガチャリ

俺達が居る部屋のドアが開いた。流石に緊張せざるを得ない。
「失礼します」
妙に親父の声に似ている声の主と共に3人の人間が入ってきた。多分見合い相手の両親と俺の見合い相手なのだろうが、それは…………





1−β

憂鬱である。冒頭から憂鬱だなんて申し訳ないんだけど憂鬱なんだもん。空を見上げたら輝かんばかりの青空なのに、あたしの心は憂鬱って言葉で占められ続けているのよ。
それはあたしが学校の制服でもお目にかかれないようなロングスカートなんか履かなきゃならず、そんなスカートに合わせたようなキチンとしたブラウスの堅苦しさも如何ともし難いものがあるのよね。
しかもあたしはこの堅苦しい衣装を休日の昼日中から纏わなきゃならず、その原因を作った両親は何がそんなに楽しいのかと思うような笑顔で歩いている。
そうよ、あたしは正装をして両親に挟まれて歩いている状況な訳よ。おまけに歩いているのはとあるホテルの豪奢な廊下ときたんだから。
少なくともウチの金銭的事情がこんなホテルに出入りできるほどの余裕があるわけないんだけど、これは両親の力じゃなくて誰かのセッティングってことね。ということは高校生以前のあたしでも理解が出来る話なんだから、高校生のあたしは当然理解できてしまうのだ。
つまりはウチの家族はとある事情によりこのホテルに招待されているのであり、弟が居ないのは今回の件では完全な部外者なんだから。出来ればあたしもそうありたかったのだが、なんと今回はまったくあずかり知らぬところであたしが主役となってしまっていた。
「そろそろ部屋に着くからキチンとしなさい」
などと母親に言われるまでもなく、このブラウスのせいで定規を背中に入れられてるように背筋は伸びてると思うんだけど。とりあえず次の機会がいつ来るか分かんないので背伸びだけはしておく。
やれやれよ、これも親孝行というのか家族サービスと言えるのかしらね。


昨夜、いきなり父親から自分の見合いを告げられた娘は反論のよりもないままに母親に早朝から叩き起こされ、制服でもないのにブラウスの襟で絞殺されそうになりながらも一生ご厄介にならなさそうなホテルの廊下を歩いているのよね。
お父さんの都合でいちいち駆り立てられたくはないんだけど、被保護下にある身としては唯々諾々と従うしかないのが学費や食費、光熱費を出していただいているお礼だと自分を納得させるしかないわ。
まあ何言ったって小学校高学年であるはずの弟の、
「うん、ちゃんと一人で留守番できるから」
という言葉に一抹の不安を覚えたあたしがこっそりとミヨキチを呼ぶように言ったあとからは、もはやあたしは操り人形のごとく両親の言う事にイエスとしか言えなくなったんだけど。
古泉、あんたは凄いわ。肉親にすらイエスと言い続けるのはなかなか苦痛な思春期真っ盛りの少女が、あの傍若無人な同級生の、しかも男の言う事にイエスとしか言わないんだからね。
などとあたしが超能力者の精神力の強靭さに感嘆の念すら抱きかけて、慌ててそれを否定した時に、

ガチャリ

あたし達はある1室のドアを開けた。流石に緊張してくるわね。
「失礼します」
お父さんの声と共に部屋に入ると3人の人間が待っていた。多分見合い相手の両親とあたしの見合い相手なんだろうけど、それは…………






どうにも見たことがある女がそこにいた。
どうにも見たことがある男がそこにいた。