『SS』キョン……、の消失 22

深夜、なのだろう。
あたしが立っているのは北校の廊下であり、慣れ親しんだ部屋の前である。
「はあ、やれやれだわ。」
あたしがSOS団の部室に入るとそこにはあたしが一番知ってる顔があった。
「よう、悪いなわざわざ。」
そいつは軽く手を上げるとあたしに声をかける。
「なんなの、これは。」
「さあな、俺が聞きたいくらいなんだが。」
肩をすくめる仕草が妙に板についてるのは誰のせいかしらね。
「まったくだ、お前もあいつと一緒にいたら嫌でも身に付くぞ。」
それはお断りしたいわ、あいにくこっちもそんなに楽じゃないもんなのよ。
「そうかい。で、ようやくお前さんと会えたんだがこれからどうする?」
さあね、あたしが聞きたいくらいよ。
「だな。さて、俺たちにはあいつらの話を聞くことくらいしかできないんだが。」
そう言ったあいつの視線の先には二人の女性が立っていた。
喜緑さんと…………
長門か。」
あいつがそう呟いた。
「お久しぶりですね。」
「……………探した。」
そうか、そういうことか。何故かあたしは理解する。だから長門に聞いてみた。
「あたしは、本当にあたしなの?」
「…………………あなたは、」
「俺はお前じゃない、お前は俺じゃない。」
長門の声を遮ってあいつがそう言った。その言葉に喜緑さんが頷く。
「そうですね、あなたはあなたです。たとえどのような事があろうとも。」
そんなこと言われてもあたしが何が出来るのか分かりはしないんだけど。
「扉は揃う。」
長門があいつの前に立っていた。
「私の力の及ぶのはここまで。後はあなた次第。」
「いいさ、いつもすまないな長門。」
「いい。」
あー、あたしの存在は?
「すみません、長門さんは彼のことになると少々性格が変わるようでして。」
ははは、長門がそんな訳ないでしょう。あたしはそこまで自惚れてませんよ。
「おや、ここでもあなたはそうなんですね。」
どういうことか分からんが、とにかくあたしのやることだけが知りたいわね。
「あなたはあなたの思う道を。」
いや、それじゃ分からんのだが長門
「扉が揃う時、私の仕掛けたキーワードが発動する。選択するのはあなた。」
「例の奴か。」
あいつが言えばあたしも判る。あの12月をあたしも忘れない。
「なんでそれをあたしに選ばせるの?」
「彼が望んだ。」
あいつを見れば確かに頷いている。何故だ? 何故あんたはそんなことするの?
「なあに、俺がお前なら自分で選びたいと思ってな。」
おい、それって丸投げっていうんだぞ?! いつも古泉にやられてるからってあたしに押し付けるな!!
「結局自分で決めた事だ、後悔はしないさ。」
そんな問題か? やれやれ、あたしはため息をついて首をすくめた。
「様になってるじゃねか。」
うるさい! 誰のせいよ!!
「ああ、もう時間ですね。では私達はこれで。」
「すいませんね。」
喜緑さんの姿がまるで夢のように掻き消えた。
「………………また図書館で。」
「おう、またな。」
長門の姿も消えそうになる。ちょっと待って!!
「なに?」
この世界は……………あたしの選択によって、
「分からない。私の世界とここは違うから。」
どういうこと?
「時間は同じ流れとは限らない、涼宮ハルヒと彼も。」
それだけ言うと長門の姿も消えてしまった。最後に長門の言った事って、
「あいつの最後のヒントだろうな。」
やっぱあんたもそう思うのね。
「ああ、あいつはそういうやつだ。」
そうね、あいつはいつもギリギリまで仲間のことを考えてくれるんだった。
「しかしいつも何で俺が、と思ったいたが、いざ傍観者になってみるとやっぱり歯がゆいもんだな。」
そうでしょうね、なんなら替わるけど?
「いや、今回も結局俺が決めたことになるんだ。それはそれで構いはしないって言ってるだろ。」
はいはい、何だろうね、この変な自信は。あたしはこんなやつなのか。
などと言ってるうちにあいつの身体も段々と薄く消えていく。
「お、時間だな。頼むから遅刻すんなよ。」
「わかってるわよ、あれで佐々木も結構うるさいのは中学の時に分かってるでしょ?」
「そうだな、なら尚の事遅刻とかは勘弁だぜ。」
あたし達は笑い合った。
「後悔すんなよ?」
「あんたこそね。」
そうだ、どんな事であってもあたしが決める事なんだ。後悔だけはしたくない。
「じゃあな、キョン。」
「それじゃあね、キョン。」
ああ、夢みたいな世界だ。あたしがもう一人の男になってる自分に会うなんて。

なんて夢を見てしまったのが今朝の話だ。あたし達の運命を決めてしまう放課後はすぐそこに迫っているのだった……………