『SS』涼宮ハルヒの減量

それはなんでもない日常ってこの言い方が気に入らないのよ、大体あたしがなんでなんでもない日常なんて過ごさなきゃならない訳?
でもそんな事関係ない日常の光景。あたしはいつものようSOS団の活動を終えて家へと帰る。
帰ってからも団長の責務として今後のSOS団における活動内容について考えることに余念はない、というかあたし帰ってからもSOS団のことばっか考えてる。
例えばキョンが古泉くんとやってるゲームは二人でばっかだから何か新しいみんなで遊ぶ方法はないかとか、キョンがみくるちゃんを見る目がやらしいから罰ゲームを与えなくちゃとか、有希が読んでる本をキョンにも読ませて読書感想文を書かせてやろうとか。あいつも少しは本でも読んで真面目になりなさいよね!
あたしは宿題を片付けながらそんなことばっか考えてる。だって学校の宿題なんてつまんないもん、別に長々と先生の話なんか聞かなくても教科書と黒板の内容があれば答えが出ちゃうから。
それなのにあの馬鹿は黒板だけはマメに写してるみたいだけど何にも理解してないのよね、結局宿題だって国木田だっけ? あれに写させてもらってるし。あたしに言えばみっちり基礎ってのを叩き込んでやるのに、宿題だってちゃんとやれるようにしてやるんだから!!
まあ何時泣きついて来てもいいようにノートの字にだけは気を使ってるけど。団長として字が汚いなんてありえないし、こういうところから威厳というものが生まれてくるもんなのよ、うん。
…………まあまだ一回もそんなことないけど、万が一だからね!
なんてことやってたらお風呂に入りなさいって母さんの声。
はいはい、もう宿題も終わったから。う、何か二回繰り返すのってあいつみたい。

……………はー、いいお湯だった。ん? 何か期待が外れたような視線を感じるけど気のせいね。
と、パジャマに着替えて脱衣所を出ようとしたあたしの視界に飛び込んできたのは、そう体重計。
ふっふーん、あたしこんなのぜんぜん気になんないもん。と言いながら体重計に乗ってるあたし。最近量ってなかったけど別に何も生活も変わってないし。
そう、それはあたしにとってとても軽い気持ちだったのだ………………数値を見るまでは。
「嘘……………」
あ、あ、ありえないわ……………3キロって!!そうだ、パジャマ!!パジャマ脱いだら!!
変わるわけないじゃない!全裸で叫びそうになるあたしがいた。
お風呂!お風呂入ったら少しは!!
「さっきまで入ってたわよー!!!!」
今度は叫んだわ。あたしってもしかしたら天然? みくるちゃんじゃないんだから。
うぅ………なんで、なんであたしが…………などと落ち込んでいるほどあたしは後ろ向きじゃない。
「ダイエットね、それしかないわ!!」
力強く宣言してあたしは拳を握り締める。見てなさい、このSOS団団長にして絶対不可侵の存在たるあたしが体重ごときに負けてたまるもんですか!!
「ふ、ふ、ふわっ、ビャクション!!!」
そ、その前に服着よう…………

こうしてあたしの戦いの日々が幕を開けたのだった。
まずは朝。いつもより早く起きてシャワーを浴びる。少しでも汗をかかなきゃね。そして朝食代わりの野菜ジュース。
母さんが心配そうに見てるけど、まあ大丈夫よ。ちゃんと栄養とか考えるから。
お昼の学食はとりあえず我慢しなくちゃね。
あー、でもなんだろうこの物足りない感じ。あたし朝はキッチリ食べないと駄目なのよね。
なにかちょっとイライラしながら学校へ。教室に入ると…………まああいつは来てないわよね。こんな時間にいたら奇跡だわ。
そのまま自分の席に着いてから机に伏せる。ちょっとでも体力を温存しないと。なにより動きたくないもの。
そのうちに教室内も騒がしくなり、あいつもギリギリになって入ってくる。相変わらず間抜け面ね。
「よう、朝から昼寝か?」
なにそれ、日本語になってないわよ。
「………なんでもないわよ」
つい不機嫌な声が出てしまう。やれやれと呟いてキョンは背中を向けた。同時にチャイムが鳴った、もうこのまま寝ちゃおうかしら………

お昼。うー、お腹すいたー!
昼休みのチャイムが鳴っても学食に行こうとしないあたしにキョンが声をかける。
「おいどうした? 早く行かないと学食が混むんじゃねえのか」
なによ、そんなにあたしが出て行かないのが悪いの?
「なんでもないわ、今日はあたし眠いから行かない」
「そうか」
そう言ってキョンはお弁当を持って谷口達のところへ。ちょっと! もうちょっとどうしたのか聞いたりとかないわけ?
しかしデリカシーのないキョンはもうお弁当を開けている。うわ、なんか美味しそう。
谷口達と何か話しながらお弁当をたべているキョン。いいなあ、あたしも………………ハッ?! いけない、誘惑なんかに負けちゃだめよあたし!!
これ以上は見ていられないのであたしは顔を伏せた。もう、こんな目に遭わせるなんて覚えておきなさいよキョン!!

ようやく放課後。うぅぅぅ〜………お腹すいたよう…………
「なんだお前、えらく元気ないがそんなに夜更かししたのか? 結局授業中寝てばっかだったぞ」
いつも寝てるあんたに言われたくないわ、と言い返すのもめんどくさい。
「なんなら今日は休むか?」
それは嫌! ダイエットごときで大事な団を放り出すようなあたしじゃないわよ!
「ちょっと寝たから平気よ! さあ行くわよキョン!!」
そう言ってキョンの手を引っ張ろうとした時。
グルンってあたしの視界が回って。
あれ? と思ったら。
あたしの意識が無くなっていた………

「……………よう、起きたか」
気が付いたら目の前にキョンの顔。あたし……………
「ったく、いきなり倒れやがって。しかも貧血だと? まったく似合わん」
うるさい! でも倒れたってことは
「もうしばらく寝るか?」
そう、ここは保健室だった。ここまで運んでくれたの?
「目の前で倒れられたからな。しかもご丁寧に俺の手をつかんだままだぞ、それで誰が運んだと思ってんだ?」
う、ま、まあ団長の危機に団員が心血を注いでそれを助けようとするのは当然なんだからね。
「へいへい、おっしゃるとおりですよ」
なにその言い方?! あたしが詰問してやろうとするとキョンの奴はそれを見越したように、
「ほれ、これやる」
そう言って何か差し出した。これ…………メロンパン?
「保健の先生が言ってたぞ、お前朝から何も食ってなかったらしいな」
え? 気付かれたの? 迂闊だわ、たった1日でこの有様なんてね。
「ったく、お前はそれでなくてもエネルギーを人よか消費してんだから飯抜きなんてやったら倒れるに決まってんだろ。いいからとりあえず食え」
悔しいけど何も言い返せないまま、あたしはキョンが差し出したメロンパンを受け取って食べた。すごく美味しい。
「購買にはそれくらいしか残ってなかったんだ、文句は言わせんぞ」
一言多いのよ、人がせっかく感謝してんのに。
「大体なんで飯抜きなんだ? 親とケンカでもしたのか?」
そんなの言えるわけないじゃない! ダイエットしようと思ったら貧血で倒れたなんて………………一生の恥だわ。
「うるさいわね! あんたに関係ないでしょ!!」
あ。言ってしまった。いきなり怒鳴られたキョンの顔色が変わる。
「お前なあ、それが助けた人間に言う台詞か?!」
…………怒らせちゃった……………あたし…………お礼を言うつもりだったのに……………
でもあたしの思いと裏腹な言葉があたしの口から出てきてしまう。
「関係ないものは関係ないわよ! 大体こんなことしてあたしに恩でも売ったつもり? あんた団員なんだから団長を助けるのは義務なんだから! 当然のことしてえらそうにするんじゃないわよ!!」
違うの、こんなこと言いたいんじゃないのよ! あたしは自分の言葉に泣きそうになった、お礼一つ言えないなんて。
「……………………」
キョンが黙り込んでる。
「あ、あのね……………」
あたしはそんなキョンを見ても何も言えない。あたしが悪いのに…………
「はあ…………まったくお前は…………」
突然キョンは大きくため息をつくと、あたしの頭を撫でた。ちょ、ちょっと! いきなりなにすんのよ!
「いいか、腹へってイライラするのは構わんがあまり当り散らすんじゃない」
そう言いながらキョンの手はあたしの髪をグチャグチャにするように頭を撫でている。
「ちょっと、髪が乱れるってば!!」
「知るか。大体お前がダイエットなんぞ似合わんからやめろ」
へ? な、なんであんたが知ってんのよ?!
「いくら俺でも女性が食事を抜くとか言ったら流石に気付くぞ。と言っても保険医の言葉がなければ分からんほどだがな」
それって何も気付いてなかったてことじゃないの、まったく言わなくていいことばっか言うんだから。
「まあそれだけ大声出せれば少しは調子も戻ったってこったろ。そんじゃ部室で待ってるぞ」
え、もう行っちゃうんだ……………そう思ったらついあたしはキョンの腕を掴んでしまった。
「な、なんだよ?」
えー、あー、な、なんであたしこんなことしてんだろ? とにかく何か言わないと!
「きょ、今日はお休み! ほら、あたしもこんなだし」
て言ったらなんかビックリしてた。
「お前…………授業はサボっても団の活動は欠かさないと思ったんだが、まさか熱でもでたのか?」
なっ?! あんたそれはあまりにも失礼じゃない!!
「悪かったって、それだと朝比奈さんや長門に言わないとな」
あれ? 古泉くんは?
「あいつはバイトだろ、多分な」
そうなの? なんでキョンが古泉くんのバイトのスケジュールを知ってんのよ、あたしも知らないのに。
「あー、あれだ。あいつが突然休んだりしてもいいように俺に無理やり教えていったんだ。直接言えと言ったらおまえに申し訳ないとさ」
そうなんだ、その割にキョンが慌てたようだったけどまあいいわ。
うーん、古泉くんらしいけどちょっと遠慮しすぎよね。別にあたしも寛容に話くらい聞くわよ。
「俺は聞いてもらった記憶はないけどな」
なにか言った?
「いや、じゃあ部室に行ってくるからお前はそこで待ってろ」
いやよ、あたしも行くわ!
「おい、それじゃ休みにする意味ないだろ」
いいの! とにかく一緒に行ってちゃんと話して休みにするの!!………………間違ってもキョンと離れるのが嫌なんじゃなくて団長としての責務としてなんだからね!!
「はぁ、まったく変なところで律儀というか頑固というか…………」
いいんだって! さあ行くわよキョン!!

あたしはキョンを引き連れて部室に行き、そこに居たみくるちゃんと有希に今日の活動のお休みを言うと帰ることにした。
「で、なんで俺がお前を送るのか説明してもらえんか?」
なによ、倒れたあたしを最後まで面倒見るのが雑用として当然の義務じゃない。
うん、だからあたしの側にずっと居てくれなきゃ駄目に決まってんのよ!
「へいへい、まあ途中で放り出したら何言われるか分からんからな」
ブツブツ言ってないでシャキシャキ歩く!!
「はいよ」
なんだかんだ言いながらキョンはあたしの隣を歩いてくれてる。
それが嬉しいんだけど。
でも何も言えなくて家の前まで来てしまった。
「あ、ありがと……………」
「む、ああ、別に構わんぞ。じゃあな」
あ、ウチにでも寄ってく? なんて言える訳なんかなくて。
「またね」
「ああ」
キョンが帰っていく。なにか言いたいのに。
するとキョンが振り返って一言言った。
「お前、別に重くもないんだから心配させんじゃねえよ、それだけだ」
え? それって…………
あたしは何も言えないままキョンを見送っただけだった。

翌日の話になるんだけど、あたしはちゃんとご飯を食べて元気満天で登校した。
こうじゃなくちゃあたしじゃないわ!!
と、教室に入ると……………あいつはまだね。
あれ? なにか周りの視線というか空気が違うような。なんというかこう、生暖かい感じ?
なんなのよ、これは?!
変な気分で席についたら阪中ちゃんが近づいてきた。なんかニヤニヤしてんだけど。
「えへへ〜、涼宮さん〜うらやましいのね〜」
な、なに? 
「昨日涼宮さんが倒れた時にね、キョンくんが倒れる前にグッと手を引いて倒れないようにしてね」
え? あいつ、あたしが手を離さなかったって………
「そのまんま涼見宮さんをお姫様だっこして保健室まで走っていったのね」
な、な?!
「おまけに先生と何か話してたと思ったら購買までダッシュして閉まる前の購買で無理やりおばちゃんを呼び止めて「すいません、どうしてもいるんです!助けると思ってお願いします!」ってもう必死にパンを買ってたのよね」
え?え?えぇー?!そ、そんなことあいつ一言も言ってないわよ!!
「もうすっごく一生懸命で涼宮さんの為に走ってるキョンくんがかっこよかったのね。いいなあーって思っちゃった」
それは…………あたし気を失ってたし……………でも……………キョンがそれだけあたしのために…………
「あー! 涼宮さん真っ赤っか!!」
ち、ちが……
「あーあ、私も彼氏欲しいなー」
だからキョンはそんなんじゃなくて!! 団員が団長を助けるのはその、
「涼宮さんが保健室に居る時、ずっとキョンくんは涼宮さんの手を握ってたのね」
!!!!!!
「あ、キョンくん来たみたい、それじゃまたあとでね」
ちょっと! これでほったらかしって!!
キョンが教室に入ってくる。なんなのよその間抜けな顔は、あたしにそれだけのことしといて飄々としてんなんておかしいじゃない!!
っていうか顔なんか見れるわけないじゃない!!
あたしは結局今日も机に伏せるしかなくなるのだ。
まったく、キョンの奴め……………
「やれやれよ」
せめてあいつの口癖でも言わないと気が済まないじゃない、まったくもう!!

言い訳というあとがき

うん、失敗したかも(苦笑)ネタもよく練ってないし。
ただ単にかっこいいキョンと微妙なデレハルヒを書きたかっただけですから。
甘い作品って書けないのか俺は?それともキャラチョイスを間違えたのか?
未熟さもありありですが、あえて成長するために見てもらおうと。
スレ投下とかは苦手なもんで。それもいかんとは思うのですがね。
ということでここまで読んでいただいた方にはご意見までいただけたら幸いです。まだまだチャレンジだけはやっていこうと思います。
では次回。