『SS』キョン……、の消失 5

校舎の入り口で藤原さんを待つ間に、あたしは九曜に耳打ちした。
「ちょっと話があるんだけど。」
九曜は1ミリ頷いて(ほんとこれで判るんだから不思議よね)、
「―――――――私の―――――部屋へ―――――――」
ああ、わかった。あとで橘と藤原さんにも言っておくから。
「―――――待って―――――いる―――――」
頼んだわよ。
と言ってたら藤原さんが来たのであたし達は帰ることにする。
藤原さんと佐々木は何か小難しい論議をしながら先頭を歩き、九曜がその後を静かに続く。
あたしと橘は大体最後尾で昨日見たドラマだのゲームの話なんかしてる。
そんな中でさりげなく橘に佐々木の様子を聞いてみた。
「佐々木さんですか?そうですね……………なにも変化は感じられません。平穏無事なのです。」
やっぱりね、あの佐々木がそんなに簡単に取り乱したりする訳がない。
第一、橘が言うところの佐々木の心象世界(何故か閉鎖空間という言葉が頭に浮かんだ)は、あたしも見た事があるけど白く静かなものだったし。
ただ生命感の無さというか、空虚なイメージが佐々木っぽいような、そうでもないような感じであたしはあんまり好きではない。
その空間の安定を保つために橘や、その『組織』なるものがあるらしいんだけど。
だから佐々木の精神状態を知るなら橘ってことで。
橘も、
「なんとなく分かっちゃうんですよ。」
って言ってたし。でも今回は違うみたいね。
「どうしたんですか?佐々木さんに何かあったんですか?!」
こらこら、あんまりくっつかないでよ。顔が近いって!
佐々木が原因じゃないなら、あんまり役に立たないのよね。
「もう!なんなのですか?!私には内緒の話なんですか!」
わかったわかった、あたしは橘に今日のあたしの事を簡単に説明した。
「むー、佐々木さんがそんな事望むはずないのです。でも、一応その女の子たちの事を『組織』で調べてみるのです。」
そう言って橘は携帯を取り出した。
「他にキョンさんが見た子の特徴とかありますか?」
と言われても、ほんの少ししか見てないし…………………
「そういえば……………制服が違ってたような…………」
「本当ですか?!それなら対象も絞れるのです!どこの制服なんですか?」
って、あたしだってよく知らないわよ。
「むうー、それじゃ『組織』にも連絡出来ませんよ。」
そんなこと言われてもねえ……………と、ここであたし達とすれ違った学生さん。
緑色の肩までかかる髪が軽くウェーブしている、優しげな微笑の人だった。
それよりも、その人が着てた制服!!
「あ!あの制服よ!」
「え?あれ、北高の制服じゃないですか?!それならすぐにでも分かるかもなのです!」
橘が携帯をかけている中、あたしは思った。
なんでこんなとこをこんな時間に北高の生徒が歩いてるんだろ?
校区は重なるけど、公立の北校と私立のウチでは時間帯が微妙にずれてるはずなのに。
それに……………あたし、あの人を知ってる気がする……………
「こっちは連絡しました、あとは待ちましょう。」
橘が携帯をしまいながら、そう言った。そうね、まだ九曜の話も聞いてないし。
こうして、あたし達は九曜の住むマンションの近くで解散となる。
「じゃあまた明日。私はこの後に塾なんだ。」
もう日も暮れかけなのに佐々木もご苦労様。
「仕方ないよ、これが両親と部活をする為にした約束だからね。でもキョンのおかげで週に2日で済んだんだ、感謝の言葉もないよ。」
あたしは何もしてないわよ、佐々木のご両親と話したときも結局日曜日に塾に行かせるのを止められなかったし。
「そのかわりに土曜日は自由を得て、君達と過ごせるんだ。僕にとってそれがどれだけ貴重な時間なのかは筆舌に尽くしがたいものなんだ。」
そう言ってもらえてうれしいよ。
「ああ、僕もだよ。キョン、また明日学校で会おう。」
佐々木は駅へと向かう。その後ろ姿を見て、
「じゃあ僕も帰るとするか。ああ、九曜の部屋に集まる時間は8時だ。遅れるなよ。」
藤原さんもそう言って立ち去る。いつの間に時間を決めてたんだろ?
「あー!あいつ勝手に時間決めて!」
あ、そうなの?
「でも、『組織』からの連絡待ちもありますから我慢してやるのです。九曜さんはいいんですか?」
「――――――――いい。」
?なにか既視感が……………
キョンさんもいいですか?」
ああ、いいわよ。どうせこっちは待つだけなんだから。
結局8時に九曜の部屋で落ち合うことになり、あたし達は解散した。
あー、言い訳考えなくちゃ…………………あたしは家への帰り道でそんなことを考えていた。
もうさっきの女の人の事は忘れていたんだ……………………