『SS』ちいさながと 22

光が段々薄れていく、それは目を閉じていた俺にも分かる。
だがはっきり言って見るのが怖い。
もしもこれでどちらの長門もいなくなっていたら………
俺は結局、何も出来ずにただその結果だけを受け入れるしかできないのか?
光は消え、暗闇が部屋を包むのが分かったが俺はまだ目を開けられないでいる。
どうする?この眼を開ければ………………
長門、いるよな?」
その前に声をかけてしまう俺のビビリを誰が責められようか?
そしてそれを見透かすような沈黙ときた。
「………長門?」
もう覚悟するしかない。
俺は思い切って目を開けた。
そこには……………………




「なんだこりゃ?」
そこにあったのはテーブルと長門長門であり、要は光る前となにも変わらない光景だったのだ。
「……………」
「……………」
小さい長門と大きい長門が向かいあって沈黙している。
「あー、長門さん?」
俺が訳が分からず声をかけると二人の長門が同時にこちらを向き、
「「なに?」」
ってオイ!!同時に話すな!!
なんだか頭が痛くなってきたんだが。
「えーと、どういうことか説明してもらえるんだろうな?」
すると小さい長門
「私には説明できない。私がダミーを強制削除しようとした際にダミーから抵抗が入り現状に至った。」
ということは、お前の作戦は失敗だったてことか?
「そうなる。」
ならこのダミー長門は?
「それについて私が説明する。」
うおッ!!しゃべった!!
なんと今まで無口、無表情だったダミーである長門が俺達に話しかけてきたのである。
「説明を求める。」
お前は冷静なんだな長門。というかどっちがどっちか分かりにくいな。
「では説明する。私は長門有希の行動をコピーしたプログラム。それ以上のものではなかった。」
そうだろうな。
「しかし長門有希の通常生活において数多くのイレギュラーを認知、私はダミープログラムとしては失敗作と認識された。」
「……………」
なにか複雑な気分だ。俺の知る長門は観測者としておかしいと言われた感じなんだが。
「それは違う。私が長門有希になれなかっただけ。」
…………そうだ、長門長門なんだよ。
「情報統合生命体は私の処分を検討した。」
またか、お前の親玉はなんでそんなに簡単に処分だの何だの言いやがる!
「しかしそれでは長門有希の不在という状況を生む。それを懸念した情報統合生命体はメンテナンス中の長門有希の素体から情報の一部を抽出、私の再プロミングを実行した。それがさっき。」
はあ?
「つまり私は長門有希になった長門有希。」
あのー、どういうことなのでしょうか?
「つまり私の持っていた行動以外の情報をダミーに移したもの。99,9871%の私。」
これは小さな長門だ。それってほとんどお前じゃないか。いや、猿と人とのDNAの差もあまりないというからやはり別人というか、別の生き物だったりするのか?
しかしどう見ても長門にしか見えん。もう考えるのもバカバカしくなってきたな、こりゃ。
「あー、要するにだ、長門が二人になったのか?」
「概ね、そう。」
そうって、お前なあ。自分でおかしいと思わないのかよ?
「これは緊急措置。」
やっぱりそこなのか。
「……………」
なんだ?急にダミー(と呼んでいいのかもう分からんが)の長門が俺の真横に座りなおしたのだ。
いや、近い。近すぎる。肩とか腕がもう当たってるって。
「……………」
すると小さな長門まで俺の肩に飛び乗ってきた。なんなんだよ一体?
「私は…………」
これは長門(大)だ。
長門有希のオリジナルの情報から、あなたとこうしたいと行動した。」
俺の隣に座る事がか?
「ってオイ?!」
長門(大)はなんと俺の手に自分の手を重ねてきたのだ!!
「私はオリジナルの全ての情報を入手していない。よって現在の情報から最適なものを判断して実行している。」
そう言う長門(大)の瞳が何故か潤んでいるように見えて……………………
いやいや!!そうじゃないだろ、落ち着け俺!!
しかし長門(大)は構わず俺に接近してくる。
やばい、顔が近い。しかもなんというか、綺麗だ……………潤んだ瞳が輝いてすら見える。
いつの間にか俺は長門(大)に押し倒されるような形になったいた。
やばい、やばい!!理性が叫んでいるが本能に負けそうだ!!
あの長門有希がだぞ?俺の真上で潤んだ瞳でだぞ?顔がものすごく近いんだぞ?しかももう色んなとこが当たっちゃってんだぞ?!
「私は…………あなたに……………」
「待って。」
小さな長門がそれを止めた。
さすが長門だ、助かった。いや長門から長門に助けられたのか?
大きな長門の動きが止まった。いや、どいてもらえないか?
「……………なぜ?」
「…………それは私の本意ではない。」
「私はあなたの情報の根幹にコンタクトしている。」
「……………」
あのー、長門さん?どうでもいいですから俺の上からどいてもらいたいいんですが。
いやもういい香りもするし当たってるし、で俺の精神がどうにかなりそうなんだって!
「…………それでも私の望むものではない………」
小さな長門はそう言うと、
「頼みがある。」
大きな長門に言った。自分が自分に頼むのか。
「………彼と二人にして欲しい。」
何故だ?今の状況からは逃れられるが意味がよくわからん。
「………………」
長門(大)はしばらく俺の上で黙っていたが、
「わかった。」
俺から離れると寝室の方へと向かった。やれやれ助かったぜ。
ようやく体を起こした俺は改めてテーブルの前に座りなおす。
目の前には正座した小さな長門。そういや最初の晩もこうだったな。
「……………さっきはごめんなさい。」
いいよ、あれはお前じゃないんだろ?
「そう。でも私でもある。」
どういうことだ?
「あれは………………私の人間でいう願望。こうなりたいと望むもの。」
なんだって?!
「私は……………あなたと…………ああなりたいと望んでいる。」
……………俺は何も言えなかった。
「それは………人間でいう好意に相当すると思われる。つまり私は、あなたが………」
もういいんだ。俺は小さな長門をその手に包み込んだ。いつもの大きさなら抱きしめてやれるんだがな。
「ごめんな、女の子にここまで言わせるなんて俺は最低だ。」
そのまま俺は長門を自分の顔の高さまで持ち上げた。
「俺は今までお前に何度も助けられた。それを当たり前のようにしてた。お前の気持ちなんか考えてなかった。」
そうだ、長門だって一人の女の子だったのにだ。
「でもな、小さなお前と一緒に居て、なんとなく嬉しかったんだよ。長門に頼られてる、信頼されてるってな。」
一緒に居てわかったんだ、お前が甘えん坊だったり我儘言ったり可愛いとこがたくさんあったりするんだって。
「そして部室でのお前の悲しそうな顔を見た時、俺も自分の胸を締め付けられたみたいに痛かった…………」
そして気がついたんだ、俺はいつもこの無口な女の子を見続けていたことに。
どんな気持ちで見続けていたのかってことに。
「…………………」
「だから俺の方から言わせてくれ。」
小さな長門の小さな瞳に。
「俺はお前が好きだ。長門有希が好きなんだよ。」
「…………あなたは……………『鍵』…………」
「関係ないね、俺の気持ちまで誰かの思い通りにされてたまるか。」
たしかにハルヒの笑顔が浮かんできた。
だけどそれより目の前の女を選んだ。それだけのことなんだ。
「…………本当に………?」
ああ、お前に嘘なんかつけないし、なにより嘘をつくつもりなんかない。
「私も……………あなたが好き……………」
そう言ってくれるのか、嬉しいぜ長門
「…………」
「…………」
俺達は黙ったまま、ゆっくりと長門を持った手を近づけて。
長門の小さな唇に俺は自分の唇を重ねていった………
ほんの少ししか触れてないのに、それはとても温かかったんだ。
「好きだ、なが………有希。」
「!!!」
いいだろう?このくらいは。
大きく目を見開いた小さな長門はとても可愛かったんだからさ。
こうして俺は初めての告白をして初めての恋人を手に入れた。
まあ色々あったし、これからもいろいろあるんだが、それもこいつとなら大丈夫だと思えるんだ。
この小さな恋人となら、な?