『SS』ちいさながと 19

団活そのものはいつもどおりだったと言っていいだろう。
ハルヒはネットサーフィン、朝比奈さんはお茶酌み、俺は古泉とボードゲーム、そして長門は読書。
そう、見た目だけはいつもどおりに長門は本を読んでたんだ。
しかしそれがいつもと違う事を俺は知っている。なんといっても本人が肩に乗ってるからな。
でもそうじゃなくても長門を見続けた俺には違いがありありと判った。
まず、朝比奈さんのお茶に手を付けない。
これは朝比奈さんも気にしてるようだ。いつもの長門ならいいタイミングでお茶は無くなっている。
何気に気に入ってんだよ、朝比奈さんのお茶を。
「……………………」
1ピコの肯定。そうだよな、お前だって朝比奈さんのお茶で癒されたりするんだろう。
それに本に集中しすぎだ。1年前ならともかく、今の長門は結構俺達のゲームの成り行きなど気にかけてたりしてるんだぜ?
コンピ研なんかに出入りするように、長門は実は好奇心が強いと思うんだ。
「……………………」
1ナノの肯定。ただ結果の見えるゲームばかりですまんな、古泉の努力を願おう。
なにより、本を読むペースが違う。
こいつは一定の間隔でページを捲っているようで、実は結構読みふけってみたり、飛ばし気味に読んだりとしているのだ。
コンマ数秒単位なんで判り難いだけだ。
「……………………本が、可哀想……………」
そうだろうな、お前からしてみればあれは読書じゃなくただページを捲ってるだけにしか見えないんだろう。
ただ黙々とページだけが捲れていく。
その姿はいつもどおりにしか見えんかもしれんが、俺から見れば最早痛々しいとしか言えない。
肩から長門の悲しみが伝わってくるような気がした……………………そうだ、お前はこんなやつじゃない。
たしかに伝わりにくいかもしれんが、長門は自分の意思や感情を俺達に見せてくれてるんだ。
俺は部室に居るのが苦痛に思えてきた。こんなことは初めてかもしれん。
こんなにも団活が早く終わる事を願うなんてな。
もうこれ以上長門を悲しませたくないんだ、俺は!!
しかし俺と、多分長門の苦悩など分かるはずのないダミーはページの音をただ響かせている。くそっ、イライラしてくるぜ。
「本当にどうされたんですか?」
いつの間にか古泉の顔が間近にあった。というか近すぎる、離れろ。
「すいません、ただこれ以上長門さんを凝視されると涼宮さんに気付かれる恐れもありますので。」
俺はそんなに長門を見てたか?視界の端には入れていたが。
「なんといいますか、気もそぞろとしか言えません。よろしければ事情をお伺いしたいのですが?」
やはりこいつには気付かれるか、ハルヒよりはマシだがなにしろ事情が事情だもんな。
俺は肩の長門を横目で見た。これすら古泉相手なら危険な行為だが。
2ミリの否定。そうか。
「あー、実は長門から本を借りたんだが難解すぎてな。ハルヒなんかにばれたら馬鹿にされるに決まってるから本人に聞きたいんだがチャンスがなくてな。」
おお、我ながら良く出来た言い訳だ。これは古泉の域までいけるかもしれんな。
「なるほど、それは貴方としても涼宮さんへのプライドもあるでしょうから解りますね。」
そうだろう、だから長門を見てしまってもしょうがないんだよ。
すると古泉はスマイル二割増で、
「ではそういうことにしておきます。ただくれぐれも涼宮さんが機嫌を損なわないようにお願いしますね。」
言われんでもそうするさ、ただ長門を見たぐらいで機嫌を悪くされても迷惑なんだが。
「そのへんは逆に貴方には分かって戴きたいんですがね…………」
なんのことやら。
「ところで僕らは授業が終わると即ここに集まり、最後に全員で帰宅しますが何時貴方は長門さんに本をお借りできたのでしょうか?」
しまった!!そこまで考えてなかったぞ!!
と、俺が答えに詰まる前に本の閉じる音。
長門、ナイスタイミングだ。
「ただの偶然。」
そうか、あれは長門じゃないもんな。本当に偶然か。
「まあその辺りはお互いにプライベートには深入りしないということで。」
待て、なんか誤解を生みそうな言い方をするな。まるで俺と長門に何かあるみたいじゃないか?
「同衾した仲。」
ここで混ぜ返すなよ長門!!
とは言え、古泉のおかげで不快だった気分から少し解放された感じだ。心の中で礼ぐらいは言っておこう。
「さ、帰るわよ!!」
ハルヒの号令で俺達は部室の外で朝比奈さんの着替えを待つ。
この間も古泉は何か話したいようだったが、これ以上はボロが出かねんので無視を決め込んだ。
ただ外を見るふりをして窓に近づき、背中で隠すようにして長門を窓の縁に座らせた。
黙ってその頭を撫でてやる、俺にはこれぐらいしか出来ないからな。
すまんな、さびしかったんだよな?
目の前にいた自分じゃない自分を見て。
そんな事思いもしないだろうお前の親玉にも改めて腹が立つ。
そしてお前がそんな気持ちになるのが分かってなかった俺自身にも。
「…………………でも……………わかってくれた……………………」
ああ、伊達にお前と長い付き合いじゃないつもりだ。
「…………………それは…………………うれしい、と感じる………………」
そう言ってもらうと俺も救われるよ。
「私は……………あなたに……………守られている………………」
そんなことないさ、俺なんかはお前に迷惑かけっぱなしだ。
「違う。私はあなたがいることで私となることが出来た。それが全て。」
長門長門さ、それだけだと思うぜ。
「…………………ありがとう………………」
そんなに素直に礼を言われるとこっちが照れるから勘弁してもらえんか?
「私は…………あなたに…………………」
長門が何か言おうとした時、
「お、お待たせしました〜。」
「さあ、帰りましょ!!」
「……………」
ハルヒ達が出てきたので長門は俺の肩に乗ってしまった。
何が言いたかったのか聞きそびれたな、この後でも聞けるだろう。
「………………」
肩に乗る前の長門の目の中に何かの決意を見た気がしたんだが………………