『SS』ちいさながと 18

さてさて、元気良く発言したハルヒが掃除当番というベタなオチをかましてくれたので俺と長門は二人で部室に向かった。
部屋の前に立つといつものようにノックする。
昼休みと違い、朝比奈さんがいらっしゃるからな。万が一着替えなど覗こうものならハルヒにどんな目に遭わされるか分からん。
「大丈夫、着替えは終わっている。」
ならノックの前に言ってくれ。
「はあ〜い。どおぞ〜ぉ。」
確かに着替えは終わってるようで、朝比奈さんの優しげな声が聞こえてきた。
「ちわーす。」
部室に入ると、
「やあ、涼宮さんはご一緒ではないのですか?」
なんだ、お前もいたのか。ますますノックの必要が無かったな。
そこには古泉の爽やかすぎる笑顔があった。
「あいつは掃除当番だ。」
「それはそれは。」
肩をすくめる古泉の正面、いつもの椅子に腰掛ける。
「すぐお茶を淹れますね。」
メイド姿の天使が席に着いた俺に優しく語りかけてくれる。本当にこのお方は甲斐甲斐しく働いて下さるな。
そして俺の視界のちょうど端、窓際の席には、って!
「なああッ?!」
いかん、思いっきり叫んでしまった。
いや、誰でも驚くと思うぞ?これは。
なんといっても、そこには長門有希が分厚いハードカバーの本を拡げていたんだからな。
「ふええ?どうしたんですかキョンくん?」
「どうされたんです、いきなり大声で?」
驚いた朝比奈さんと古泉に聞かれたが、そんなもん俺がどうなってんのか知りたいよ。
思わず肩の長門を見るが無言。そうだよな、二人が居る前だし。
「ああすまん、ちょっとさっきまで寝ちまってたからまだ頭がはっきりしてないようだ。ハルヒが来る前に顔でも洗ってくるわ。」
苦しい言い訳だが俺はそう言って部室を出た。
朝比奈さんはともかく古泉の奴は何か感づきそうだな。
とにかくハルヒが来るまでに情報整理だ、俺は肩の長門にさっきの状況の説明を求める。
「なあ長門、あのお前はなんなんだ?」
長門の答えは簡潔だった。
「あれは私のダミー。」
「なんだって?」
「私の普段の行動パターンをトレースして行動するダミープログラム、それが部室にいる私。」
つまりはコピーロボットってやつか。
「そう。」
でも何だってそんなもんが必要なんだ?お前は実際にここにいるじゃないか。
涼宮ハルヒに私の不在による悪影響が出ないようにするための措置。」
まあハルヒのことだ、お前が居なければ、
「お見舞いにいくわよ!!」
とか言い出しかねんな。
「そのような状況を回避するため情報統合生命体が作り上げた。」
なるほど、色々と気を使わなきゃならんのだな。
と、ここで俺はふと気がついた。
「なあ長門?」
「なに?」
「あのダミーとやらに今のお前の情報を乗っけりゃ、別にお前が小さくならなくてよかったんじゃないのか?」
「あ。」
ん?長門さん?
「………………………それだとメンテナンスしてる身体の意味がない。私は私。」
ああそうかもしれんな。でも……………
「現在の状態が最適。別に思いつかなかった訳ではない。大丈夫。」
そうなんだな。あれか、お前らの親玉も12分の1にでもなってんのか。
なんというか………………宇宙の意思ってのも意外と抜けてんだな。
「あれは私ではない。私は今の状態で満足。」
いや、今で満足されてもな。俺はいつもの長門の方がいいぞ。
「私もあの身体の私が好き。でもあなたの肩には乗れない。」
何故俺の肩なんだよ、いつもの席で本を読むほうがいいだろ?
「あなたの…………………側がいい。」
心配すんな、あそこなら俺の目線には嫌でも入る。
「……………………そうではない。」
あ?何か言ったか?
「なんでもない。そろそろ涼宮ハルヒがやってくる。」
そうか、なら俺達も戻らないとな。
俺達が戻ると、古泉は意味有りげに微笑んできたが、
「目が覚めました?キョンくん。」
と言ってくれた朝比奈さんの方を向いて無視した。
「ええ、すいませんでした。驚かせてしまって。」
「いいんですよ、お昼休み明けってつい眠たくなっちゃいますよね。」
この方でもそんなことがあるんだろうか?俺の疑問にも禁則事項ですまされそうだが。
「はい、お茶です。今日はほうじ茶にしてみたんですよ。」
なるほど、いい香りですね。
俺がお茶に一口つけたところで、
「ごっめーん!!遅れちゃった!!みくるちゃん、あたしにもお茶!!」
一息で怒鳴りながらハルヒが入ってきた。いい加減ドアの寿命が心配になってくる。
ふと長門(ダミー)を見ると、その傍らにはおそらく口をつけていないだろうほうじ茶が湯気を上げていた。
いつもの長門なら、気がつかない間に飲み干しているのだが。
肩の長門がそれを、そうだな寂しそうにそれを見ていた……………