『SS』ちいさながと 15

俺にしては珍しく早めの登校なのだが(長門にトーストを食べさせたにしては)、これまた珍しく谷口の奴が教室に居た。
ただし机にうつ伏せたままピクリとも動いてないが。
なんだ?そんなに急いで学校に来なきゃならん用事でもあったのか?
俺は谷口の側でにこやかに笑っている国木田に声をかけた。こいつはいつもこの時間には登校してるよな。
「どうした、国木田?なんで谷口が死んでるんだ?」
「ああ、それはね…………」
国木田が答えようとした時、死体がいきなり起き上がった。うおっ!生きてたのか谷口!
しかも朝っぱらから涙目である。ついにこいつの脳に決定的な致命傷が起こったらしい。
「ギョ〜ン、ぎいでぐでよ〜〜!!」
誰だギョンって。聞いてやるから鼻水を拭け。
「う゛う゛………俺な、振られちまったんだよ……………」
そうかい。
「あ?!なんか冷たくないか、おい!!」
いや、なんか日常会話に普通に織り込まれてるからな、お前の振られ話。
「お、お前までそんなこと言うのかよ……………」
どうやら国木田にも似たような事を言われたな。それで笑ってるのか、あいつ。
「そうは言うがな、これは俺にとっても大本命だったんだぞ?!何ヶ月メールのやり取りしたと思ってんだ!」
知らん。というか、マメだな。
「向こうもすげえ好印象でな、これはいける!と確信してたのに初デートでいきなり『ごめんなさい』だぞ?!どうなってんのか俺が知りたいぜ!!」
そりゃ、会ってみたお前の印象があまりにもだな……………………
「あっ?!」
この流れは………!!肩に乗る長門を見る。
1ナノの肯定、やっぱりお前か。というか本当に谷口が振られるとは。
[おい、どうしたキョン?!まさかお前、彼女の事何か知ってるのか!?」
んなワケあるか。まったく見ず知らずだ。
「いや、まさかと思うがお前のズボンのチャックが開いてたんじゃないかとな。」
「そんな訳あるか!!」
「と言っても今まさにチャックが開いてるんだが。」
「な、なにぃーーっっ?!」
そう、谷口のチャックは全開だったのだ。長門もいるんだ、そんなもんとっととしまえ。
「ま、まさかあの時も……………」
ああ、お前は単純でほんと助かるよ。んな事あるかい。
「ああ…………俺ってやつぁ……………」
と言いながら谷口は再び机に伏せて死んだ。
「まあまあ、谷口。今度ズボンでも見に行こうよ、僕も付き合うから。」
いい奴だな国木田。
「ユニーク。」
そうだな長門。でもお前が原因なんだぞ。
「まあズボンなら俺も見に行ってやるぞ。」
「うるせえ、どうせお前は涼宮との予定を優先させるんだろうが。」
それは心外だな、あいつは俺の予定をことごとく覆すだけだ。それが俺にどれだけ負担か、お前は知らんだろう?
「知りたくもねえな、だからせいぜい涼宮の面倒でも見てやがれ。」
くそう、谷口にまで言われるとなんか腹立つな。俺はハルヒのお守り専用かよ。
「WAWAWA―――――?!」
いきなり谷口がひっくり返った。別に普通に座ってたはずだが?
「痛ってー、なんなんだよもう……………」
「罰が当たったんだろ。」
俺はそう言いながら自分の席に向かった。後は国木田に任せよう。
まったく、長門のせいだからって同情できんな。
「ユニーク。」
ああ、長門
「何?」
ありがとな、罰を当ててくれて。
「………………いい。」
そんな事があったもんだから、すっかり忘れていた。
そうだ、最大の難関はここにある。
俺の後ろの席に。
涼宮ハルヒは、さっきまでの騒ぎなど関係無しとばかりに座っていた。
その顔を窓に向けて。
そのオーラは………………まずいな、あまりいいとは言えん。
頼むぞ、長門。気付かれないでくれ。
肩の長門は久々に1ミリ頷いた。
どうやら睡眠学習とはいかないようだな。
やれやれだ、俺は自分の席へと着いた。緊張の4時間が始まる……………