『SS』ちいさながと14

さて、何だかんだとあったのだが、それでも学校には行かないといかん。
俺が何か失った気分で制服に着替えると、妹が部屋に入ってきた。
「あー、キョンくんもうおきてるー。」
そりゃ俺だってお前の攻撃を食らう前に目覚めてる事だってあるさ。
まあ長門のおかげなんだが。
「すごーい、今日はおせきはんだねー。」
なんか違うぞ妹よ、というか赤飯が食べたいのか?
「だってキョンくん、おとなっぽいもんねー。」
いやお前に起こされなくても十分大人なつもりなんだが。それよりどこを見ている?そこには……………
長門が座っている。おい、本当に見えてないんだよな?
ミクロンの肯定。だんだん動きまで小さくなってきたな、わかる俺も俺だが。
なにより俺は長門が見えているから、こいつの言葉を信じるしかない。
しかし妹の勘が鋭いだけなのか?
「それじゃ、シャミにご飯あげてくるー。」
なにやら自作の歌を口ずさみながら妹は部屋を出て行った。やはり見えてないのか。
ちなみにシャミセンが気になる方がいるなら、あいつは昨日は俺の部屋にはいなかった。
元々野良なんで気にしてなかったが家には居たらしい。
「野暮用。」
そうなのか?
「ここに居るのは野暮というもの。」
おい、本当にシャミセンがそう言ったのか?
「………………………言ってた。」
なんか間があったようだが気にしないことにする。
とにかく朝飯だ、遅刻を気にせず食えるのはいいことだね。と、ここで問題なのは、
「お前の朝飯か…………」
そうだ、さすがに朝まで部屋で飯を食うわけにもいかないだろう。
「…………………私なら平気。」
いや、昨日の食いっぷりを見て大丈夫だと思うほど俺は無慈悲ではないぞ。
「…………実はペコペコ。」
そうだろうな、その方が分かり易い。というか、もう腹ペコなのかよ?!
何か長門のキャラが段々と変化している気がして仕方が無いのだが。
「気のせい。」
そうか?
「12分の1しか能力が使えない上に感情コントロールも12分の1だから意外とこれが素のキャラだったりしても気のせい。」
………………そうか。
なんというか、こう、うん、なんとも言えん。
「とりあえず飯だな。」
「そう。」
この状況をスルーするには飯を食いに降りるしかないのだ。
こうして台所へと赴く俺、肩には長門。いつの間にか、このポジションが当たり前になりつつある。
長門は見えてないとはいえ、なかなか緊張ものなんだぜ?
台所には俺の弁当と朝食があったのだが、
「そうか、その手があるな。」
俺は弁当をカバンに入れると、
「いってきます。」
と言って家を出た。その手にトーストを持って。
キョンくん、どーしたの?」
妹の問いには、
「部活の朝練だ。」
と言っといた。万が一SOS団に朝練などあろうものなら参加する気は毛頭無いが。
とにかくトーストの確保が優先なのだ、訝しがる妹にはすまないと思う。
そのままトーストを持ってしばらく歩き、人影の無さそうな路地に入る。
「ほら長門、少ないだろうが食ってくれ。」
それまで微動だにしなかった長門にトーストを向けた。
「…………………ありがとう。」
いいってことさ、お前からそんな素直な礼を言われるなら早めに家を出たかいもあるってもんだ。
俺が持ってたトーストは綺麗さっぱりと長門の腹の中へと消えていった。相変わらずいい食いっぷりだな。
「ごちそうさま。」
おそまつさま、ほんとにな。
「それじゃ、学校に行くか。」
1マイクロの肯定。動いてないようで判るもんだ。
などという事がありながら学校へ向かったのだが。
「………………抜かったぜ…………………」
よく考えたら俺は朝食抜きになったんだよな。
それでこの北校へと延びる地獄の坂道を登るんだぜ?
「…………大丈夫?」
ああ、なんか腹のあたりからシュプレヒコールが大合唱な気もするが大丈夫だ。ただ長門、この坂を平らにする方法ってないものか?
「できるが推奨しない。」
だろうな。まあ昼までは睡眠で体力を温存するとしようか。
そんな益体も無い事を思いながら俺は坂道を登り続けたのさ。
………………………この後に重要な見落としがあったってのにな。