『SS』ちいさながと 5

話をまとめてしまえば、長門はどうやら俺の家にやっかいになりたいってことらしい。
そう言われてはい、わかりましたって訳にはいかんだろ。家には家族だっているんだぞ。
だからと言って無碍に断れるほど鬼にはなれんのだ、俺ってやつは。
ならば何故に長門が我が家へ訪問したがるのか問い詰めないことには始まらん。
「なあ長門、保護ってのはそのー、何だ?お前に危険が迫ってるってことなのか?」
小さい長門は2ミリ首を振る。
「あなたの予想している危険に該当するものは私、及びあなたに接近している可能性は低い。」
そうか、お前がそう言うなら安心ってことなんだろう。
「ただし、あなたに保護を求めたのは私に関しての別の危険性によるもの。」
長門に別の危険だと!?それならば俺も何をさておき、手を尽くさねばならん。何の力にもなれんかもしれんが、長門だけを危険にさらすのはもう御免なんだ!
「あなたにより、その危険性は著しく軽減する事が可能。だからこそ、あなたを呼んだ。」
俺にそんな力なんかないぜ?まあそう言ってもらうのは嬉しいが。
「俺なんかに何かできるとは思えんが、長門に関しての危険ってなんなんだ?」
すると長門のやつが急に黙り込んだ。なんだ?
「………………………」
どうやら何か考えているらしいのだが、そんなに伝えづらいことなのだろうか?
「…………………不必要な情報を削除し、要点だけを伝える。」
そうしてくれ、俺もややこしい解説など聞いても理解など出来はしないからな。
「…………………私のかかる危険とは、私が小さいから。」
は?
「私が小さいから危険。だから、保護を。」
いやいや、それはさすがに端折りすぎだろ!ハルヒといい、こいつといい、何故中間というものがないんだ?
「あー、長門?たしかにそれは要点なのだろうが、お前が小さいことと俺が保護しないとならないこととが繋がってないようなんだが。」
「私の説明ではわかりにくい?」
いや、首を3ミリも傾けないでくれ。何故だか物凄い罪悪感に襲われちまう。
「いや、お前の言いたいことはよく分かった。小さいからなんだな?」
「そう。」
首の角度が戻った長門が1ミリの肯定。どうやら機嫌を損ねてはいないようだ。
「私のサイズが縮小したことにより、地球上での生体維持活動に支障が出る確率が増大。それが危険。」
まあいきなり自分が12分の1だっけ?になってたら普通の生活が出来るはずはないな。
「しかし長門だったら何でもないんじゃないのか?」
俺は当然の疑問をぶつける。こいつのインチキパワーだったら別にサイズなんか問題はなさそうなんだが。
「そうでもない。この姿は涼宮ハルヒを観測するための最低限の容量しか有してない。そのため私は情報統合思念体とのコンタクトは可能だが、その能力は限られている。」
そうなのか?それでもさっきのジャンプやインターフォンでの会話ができるだけでも凄いんだが。
「それも限度がある。」
そういうもんかね。
「だからこそ、生体活動維持のための補助が必要。それが出来るのはあなた。」
ああ、お前が一人だと大変なのはよく分かった。しかしサポートできるのが俺だけってのがわからん。
「他のSOS団の連中は駄目なのか?朝比奈さんだったら同性だし無碍にはせんと思うが。」
朝比奈みくるは私に対し苦手意識をもっている。」
たしかに朝比奈さんが長門に対して苦手意識があるのは確かだが、あのお方はそのくらいでお前を保護しないようなお人ではないぞ。
「それに私が彼女の家に行った場合、危険性が増す可能性を否定できない。」
どういうことだ?それは未来的な組織がどうとかあるってのか?
「単に彼女の行動に巻き込まれる。」
えー、それは朝比奈さんがドジッ娘属性を家でも十分に発揮しているって言いたいのか?
「…………………」
言いたいんだな。
となると、ハルヒに説明ってのはありえないから………………
「小泉一樹は論外。」
バッサリと切り捨てられた。さすがに同情はしない。
「あなたしかいない。」
「待て、たしかお前のお仲間が居ただろう?たとえば喜緑さんとか。」
ん?喜緑さんの名前を聞いたとたんに長門の顔色が変わったような。
小さいのでわかりにくいが、間違いなく青くなったな。俺にはわかる範囲でだが。
「それは…………………………最も危険な行為。」
なんでだ?一番確実かつ安全に思えるがな。
「それは……………………………………なんでもない。」
なんだよ、その奥歯に物の挟まった言い方は。逆に気になるじゃねえか。
「とにかく、あなたしかいない。」
なんか無理やり話を戻されたぞ、いったいあの人に何があるんだろう?
聞きたいような、聞くと後悔しかしないような気もしなくはないので、ここは長門に合わせるべきなのだろう。
「あー、お前に選択肢がないことは分かった。だが俺だって………………」
ここで俺は長門の目を見ちまった。
その漆黒の瞳を。
「私がいては迷惑?」
おまけに4ミリも首を傾げられたんだぜ?
「………………家族にだけは見られるなよ。」
仕方ないだろ?あれに耐えられるくらいなら、今頃俺は聖者にでもなれるはずさ。
「お世話になる。」
そう言うと、長門は俺の右肩に飛び乗ってチョコンと座ってしまった。
これはそのまま連れて帰れってことだよな?
やれやれだ、長門の電話で呼ばれて、まともな状態で家に帰れたことがあったことってあったか?
まあ長門がこうなったんだ、俺がここにいてもしょうがない。
「よっと。」
俺は立ち上がった。どういう仕組みか、長門はバランスも崩さず座ったままだが、もう気にもならん。
そのまま部屋を出ようとすると、
「待って。」
どうした長門
「玄関の横に鍵がある。」
わかったよ、以外に細かいんだな。
「あなたが出かける時は鍵をかけろと言った。」
そうだっけ?俺は、長門が俺の言ったことを守ってくれていることに何とも言えない嬉しさを感じながら、小さな長門を肩に乗せたまま部屋を出て鍵をかけた。