『SS』ちいさながと 4

さて、部屋へと入ったはいいがこれからどうするんだ?
小さな長門は俺に対し、
「座って。」
と言う。とりあえず説明してもらえそうだ。俺は言われたとうりに、いつも長門の部屋に来たら座るテーブルの前に腰を落ち着けた。
と、長門は俺を置いて移動しようとしている。
「おい長門、どこに行く気だ?」
「………………お茶を。」
「いいからまず説明してくれ。」
「…………………………………そう。」
何故か名残惜しそうな雰囲気を残しながら、長門は俺の目の前のテーブルに飛び乗った。見事に俺の真正面に正座で着地してな。
ようやくまともな話が出来そうだ。
目の前に来てくれたことだ、ついでに俺は目前の長門を改めて観察してみる。
そうだな、何か変化があったとは言いづらい。なぜなら姿形は長門そのものだからだ。
しかしその身長は、そうだな目測だが12〜13cmといったところか。
解りやすく言えば、長門がそのまんま10分の1ぐらいに縮んだって感じかな。
「概ね、正解。」
うおっ?!なんだ?俺の心が読まれたのか?!
「あなたは口にだしていた。」
そうか、まあ思いついたことを口にしちまうってのは俺の悪いクセなんだが。
「正確には私は12分の1の体積に縮小されている。」
そりゃあ、星印の模型屋が喜びそうなサイズだな。って待て?!
「お前、今『されている』って言ったよな?それはつまり、お前の意思じゃないってことか?!」
「……………………」
おい、黙ってても分からん。
「今、肯定した。」
ん?肯定ってことは………………ああ、頷いたのか。すまん、いつものお前でさえミリやミクロン単位での動作なんだ。なんで俺が分かるのか自分でも謎なくらいなんだから、そのサイズだとさすがに判別できんぞ。
「あー、出来ればもう少しオーバーアクションで頼む。」
「わかった。」
ああ今度は俺でも分かるぞ。小さな長門の首が1ミリほど動いたからな。
「それじゃあ、これはどこのどいつの仕業だ?」
すぐに原因と思ったのは長門、というか長門の側に敵対する勢力だったんだが。
あの雪山の記憶が頭にこびり付いちまってるからな。
「違う。」
分かってるさ。それならお前がこんなに落ち着いてないだろうし、なによりさっきのテーブルへのジャンプみたいな芸当が出来る訳がない。
「ならハルヒか?」
あいつならありえるからな。普段から長門が人形みたいだって言ってるし。まあ、いい意味でだ。物静かな白皙の文学少女をあいつなりの綺麗って表現で表してるんだよ。はて、なんでこんな言い訳めいたこと思ってるんだ、俺は。
だから、もしもあいつが何かのきっかけで長門が本当に人形だったら、とか思っただけでそうなるってのがやっかいなんだが。
しかし長門は左右2ミリに首を振り、
「それも違う。」
と答えたのだ。
敵でもなければハルヒでもないってことは…………………?
「これは情報統合思念体の意思。」
はあ、やっぱりか。選択肢としてはこれしか残ってはないからな。
万が一、異世界人とかの出番だったら俺はどうしたら良かったんだろうね。ホッとしたと言っていいのやら、なにやらだ。
「しかしお前の親玉は何を考えてやがるんだ?第一お前の役目はハルヒの観測とやらなんだろ、そんなになっちまってどうしろってんだ?」
「…………………………」
長門は何か考えているようだったが、
「これは緊急処置。」
そう答えた。緊急処置?!
その言葉で俺の体に電流が走る。おいおい、それはやばいってことじゃないのか!?
「大丈夫、今回の件は大したことではない。」
いや、お前が縮んでるだけで十分大した事だろうが!
「私のインターフェースのメンテナンスが今回の処置。」
はあ?
俺のこの時の顔はきっと物凄い間抜け面だったに違いない、なにしろ開いた口が塞がってなかったからな。
「お前……………メンテナンスってなんだよ?」
「メンテナンスとは〔補説〕 略してメンテとも
[1] 維持。保守。

[2] コンピューター-システムを正常に動作させるために行う日常的な作業のこと。」
いや、意味を聞いてるんじゃないんだが。
「…………………そう。」
もしかしてジョークのつもりだったのか?
「と、とりあえずお前の身体検査みたいなもんなのか?」
「とりあえず、そういうものに該当する。」
そうか、それならいいんだ。なにしろあの夏休みを含めりゃ約600年だ。
「人間ドックにかかりもするさ。」
「人間は犬ではない。」
あのー、それもジョークなんだよな?な?
「…………………………………………そお。」
あー、なんかすまん。
だから顔を上げてくれないか?
「…………………迂闊。」
長門がこのサイズなのが残念だ。なんといっても赤くなるこいつの顔なんて貴重なもんはこの先見れそうにはないからな。
はてさて、長門の親玉はこいつに何をさせたいのかね。
まだ多少は長門も動揺しているかもしれんが、こっちも聞きたい事は山ほどあるんだ。
「でな、長門は何で縮んでるんだ?」
「私の有機生命体としての部分はメンテナンス中。」
「それはさっき聞いた。」
「しかし涼宮ハルヒの観測を中止する訳にはいかない。そこで私の記憶中枢を基本としたデータの縮小体を作成、その任務を継続させる事となった。」
つまりはハルヒの観測の為に、お前の大事な所だけを残していったってことでいいのか?
1ミリの頷き。
「しかし何だってそんな面倒なことをするんだ?数日なら誰かに代わってもらえるんじゃないのか。」
せっかくの臨時休暇だ、たまには使命なんか関係なく長門には休んでもらいたい。
「それは出来ない。」
なんでだ?
「私は現在、インターフェースとしては最も涼宮ハルヒに接近して観測している。その為、涼宮ハルヒに関するデータは私の報告が基準となっている。」
なるほど。
「それゆえに、私は報告の義務を怠ることは出来ない。それにたとえ数日でも私以外のインターフェースが接触して涼宮ハルヒの心的影響を変化させるのは好ましくない。」
はあ、結局ハルヒの奴を刺激しないようにしながら観察するには長門が一番ってことか。
「そう。それに…………………」
どうした、長門
「それに、私という個体もここから一日も離れたくないと感じている。」
そう言った長門の小さな、しかし美しく光る黒瞳石の瞳はただ一点、俺だけを見つめていた。
と言うのは自意識過剰過ぎか。長門だってSOS団の一員として帰属意識が強くなっていってるというのは俺が一番よく知っている。だから、
「ああ、俺だって長門が一日でも離れるってのは、なんと言うか寂しいもんさ。」
そう言ってやった。
「……………………そう。」
こんな俺の言葉でもあいつの気休めになってもらえればありがたいもんだな。
「それで俺を呼び出したのは何でなんだ?」
「あなたの家へ行きたい。」
なんだと!?なんでそうなるんだ!!

……………………………………と言った訳で冒頭の俺に戻る訳なのだが、我ながらつい先ほどの事とはいえ大した記憶力だ。何ゆえに学業に活かせないのか、誰かお教え頂きたいものだね。