『SS』ちいさながと 3

この時点で俺の心臓はストライキ寸前までに早打ち、息もいい加減に上がってはいたのだが、なにしろ長門の一大事だ。
駐輪場からマンションの入り口までの間で深呼吸を繰り返す。
こう見えても俺も非常時慣れしてきたのか、インターフォン長門の部屋番号を押す時には、なんとか普通に話せるようになっていた。
「…………………………」
インターフォン越しからいつもの無言なのだが、とにかく不安が先にきちまうんだよ。
長門!聞こえるか長門!!」
俺の声に対して、この部屋の主はどう反応してるのか?
この時ほどオートロックってやつが不愉快なもんだと思ったことはないね。
しかし、焦燥感に駆られる俺が拍子抜けしてしまうほど、長門長門だったんだが。
「…………………入って。」
いや、やはりいつもの長門じゃないな。なんと言えばいいのか、ワンテンポ遅いって言えばいいのか?
とにかく俺は飛び込むようにエントランスに入りこむと、真っ先にエレベーターへと駆け込んだ。
最早通いなれたと言ってもいい、7階へと急ぐ。
エレベーターのドアが開くと同時にダッシュした俺は、長門の部屋のチャイムを鳴らしていた。
まったくもってキャラに合わない行為だと我ながら思うのだが、なにしろあの12月と雪山を経験した俺には長門の電話にはこういう対応しか取れないのさ。
そしてチャイムが鳴った後のこの沈黙。
普段のあいつなら、チャイムを鳴らす必要さえないはずだ。なにしろ俺が来ている事は分かっているはずだからな。
しかし今、俺はドアの前で立ち尽くしている。頼む長門、無事でいてくれよ!!
焦った俺は二度目のチャイムを鳴らすつもりで指を伸ばした。
と、そのタイミングでドアが静かに開いたんだ。
長門!!」
俺はそのドアが開ききる前に部屋へと飛び込んだ。
そして俺の目に映ったのは無人の廊下だった…………………
普段いるはずの、目の前に立っているはずの長門有希の姿がなかったのだ。
長門?!長門!!どこだ!どこに行った、長門!!」
インターフォンには出たんだ、まさか俺がエレベーターで昇ってる間になにかあったっていうのか?!
俺はまったく余裕を失って、部屋に上がりこもうとした。
するとその時、
「待って。」
この声は長門か?どこだ?!
「ここ。」
声は俺のほぼ真下から聞こえる……………………………真下だと?!
よほど慌てていたんだろう、靴を履いたまま廊下に片足をかけていた俺の足元には、
「お前………………………長門か?!」
「そう。」
それは間違いなく俺のよく知る長門有希がそこに立っていたのである。
ただし一点だけ、そうだ一点だけ俺の知る長門と違っていたのは。
「…………………………なんでお前、そんなになっちまってんだ?」
普段から小柄な長門が、そのまんま小さくなっちまってたんだよ。
おい、これは何の冗談だ?
「とりあえず部屋へ。」
俺の混乱なんかどこ吹く風といった感じで、元凶たる長門はとっとと部屋へと入っていってしまった。
やれやれ、やはり俺には異常事態にしか見えん。
しかし今は、このインターフェースさんの事情に耳を傾けるしか手はないわけだ。
俺は今までの労働分も含めた大きなため息を一つ吐くと、長門に続いて部屋へと上がっていった………………