『SS』 真夏の夜の夢 前編

 暑い。世間一般では既に夏になっているから当然暑い。
 にも関わらず狭い室内に六人もの人間が集まり、しかも中央には部屋を覆わんばかりの笹が鎮座していやがるのだ。
 そして笹を見上げながら灼熱の笑みを浮かべているのは太陽も裸足で逃げ出す勢いの涼宮ハルヒその人である。
「さあ! さあさあさあさあさあ! SOS団主催の七夕パーティーの始まりよっ!」
 パーティーと言っても全員で短冊を書いてぶら下げるだけなんだけどな。それでも否応無く渡された短冊に何を書こうかと悩むこと暫し。
 ようやく書いた『宝くじが当たれ』と『安定した就業』という十年後を睨んだ俺の願いは「小物過ぎる………」というハルヒの哀れみを込めた視線の元、何とか無事に笹に飾られたのであった。
「はいはいっ! そんじゃ笹も飾ったからおやつにしよっか!」
 全員が短冊を吊るし終えたところで笹のスポンサーであるところの鶴屋さんが正に鶴の一声で注目を集める。
「そうね。みくるちゃん、用意お願い!」
 朝比奈さんがいそいそとお茶の準備を始め、長門が窓際に落ち着いて本を開いたところで笹だけが主張し続けるSOS団の通常営業がスタートしたのである。
 本当にどこがパーティーなのかといいたいのだが、団長であるハルヒがそれでいいらしいので俺が兎や角言うものでもないのだろうさ。


 こうして鶴屋さんが持ってきてくれた豪華な菓子類だけが辛うじてパーティーと呼べる七夕パーティーハルヒ鶴屋さんの笑い声と弄り回される朝比奈さんの可愛らしい悲鳴で恙無く過ぎていくのであった。って、止めろよハルヒ




「いや〜、楽しかったねえ」
 そうですか、後ろで涙目のままの朝比奈さんを見てもまだそう言えるんですね。片付けもそこそこに下校の用意を始めたハルヒが俺と古泉を追い出そうとした時に鶴屋さんに言われ、俺は呆れてしまう。
「はいはい、みくるがお着替えすっから男子は退散だねっ!」
 言われなくても出ますよ、とはいえハルヒに蹴り出されるよりも遥かに優しく鶴屋さんに背中を押されて俺は文芸部室を出る。後ろから古泉が出てきたところで「じゃあね〜ん」とドアが閉められた。
「いや、今年は平穏に終わりそうですね」
 それは嫌味か? と言いたかったのだが古泉が安堵のため息を吐くのを見て本音だったのかと思ったりもする。俺だって朝比奈さんからの手紙が下駄箱に入っていなければ安心するところだが、帰る直前まで油断出来ないってとこだな。
 西陽が射す廊下はそろそろ立ちぼうけするには厳しい蒸し暑さとなってくる。そんな中で古泉と適当な話をしていたのだが、
「おっまたせー!」
 ドアが外れそうな勢いで開け放ったのは団長ではなく名誉顧問であり、その後ろを満面の笑顔でハルヒが続く。
 やや疲れた朝比奈さんといつもどおりの無表情な長門が出てきたところで無事帰宅となるのであった。



 下駄箱を覗いてみても白い封筒は無かった。安心したような寂しいような複雑な気分なのは何故だろう、と思いながらズボンのポケットに手を入れる。


 ………そこにある感触を確かめるように。








 長門のマンション前で解散した俺は自転車を走らせて家へと帰る。帰り次第着替えてからベッドに横たわる。相変わらずノックもしない妹の闖入を適当に躱しながらシャミセンの相手もしつつ、俺は普段と変わらない時間を過ごしていった。
 飯も食い、風呂も入り、それでも寝間着にはならないままで夜は更けてゆく。静かに待つ。夜が夜になるのを。




 誰もが寝静まった時間に俺はそっとベッドから離れた。本来夜行性であるはずのシャミセンは軋むベッドにも反応せずに眠りこけている。
 足音を立てないように細心の注意を払いながら階段を降り、鍵を外して屋外に出る。鍵をかけなおして自転車には乗らずに歩く。行き先は分かっている。
 しばらく誰とも遭わない道を歩くと一台のタクシーが停っていた。
 俺が近づくと後部ドアが静かに開く。俺も何も言わずに乗り込み、運転手に一通の封筒を差し出した。

 制服のズボンに入れられていた、ずっと持ち続けていた封筒を。

 運転手は黙ってそれを受け取ると車を静かに走らせる。行き先は分かっているので俺も無言のまま車は街中を走り抜けていった。
 互いに何も話さないままで車は静かに走り続ける。やがて街灯も消え、周囲から家の明かりも見えなくなっていった。俺は暗い窓の外を眺めながら手紙の中身を思い出す。
 それは…………






 車は殆ど揺れも感じさせないで止まった。俺は開けられたドアから車を降りる。料金などは気にしていなかった、そういうものだからだ。
 外は日が沈んでいるが蒸し暑かった。冷房の効いた車から降りた途端に汗が滲んでくる。俺はタクシーが走り去るのを見送ると暗い道を歩きだした。
 人工的明かりが無い中を月と星の光だけを頼りに歩く。周りに何もない夜空は俺が住む街よりも星が輝いているように見えた。
 空には、流れているかのように輝く天の川。その流れに導かれるように何もない道を歩く。
 夜空に吸い込まれるように、天の川の端まで歩く。
 空にある川を追いかけていくと、俺の真横にも川の流れを感じた。川に沿うように歩き続け、やがてたどり着いたのは一本の橋だった。石造りの何の変哲もない橋で一人立っている。
 此処に居れば。此処で待てば。
 それは七夕だから。七夕の日、川には橋がかかり、そして彼女がやって来るのだから。
 彼女は橋の向こうから歩いてくる。芝居がかった演出に拘ったのは彼女なりの覚悟なのかもしれない。
「………待たせてゴメンね」
 そう言いながら俺の胸に飛び込んだ鶴屋さんを抱きしめ、そのまま口づけた。
 橋を渡り、束の間の逢瀬を。七夕に準えたシチュエーションは互いの立ち位置が生んだ副産物のようなものなのだろう。
 いや、真面目だった夫婦が共にいたが故に怠惰になり別れさせられたという物語そのものが俺達なのかもしれない。
「んむっ…ん………」
 俺の唇が鶴屋さんの舌でこじ開けられる。誰もいないとはいえ橋の上で激しいキスをしている二人が求めているのはお互いのみなのだから。
「ん………はぁ…………」
 このままキスしていたいが流石に場所が悪すぎる。誰も居なくても目立ちすぎるし、何よりも橋を渡りきっていない。俺は唇を離すと何も言わずに抱え込むようにして鶴屋さんを引き寄せ、そのままの体勢で歩き始めた。多少バランスは悪いが、少しでも接触していたい。鶴屋さんも同じ思いだから何も言わずについてくる。
 歩く、と言ってもこれ以上は我慢が出来ない。橋を渡った俺達は滑り込むように橋の下へ。橋脚に隠れるように入り込んだ俺達は再び唇を押し付けあう。


 ――――――――七夕の話をしよう。牽牛と織姫は働き者であった。そんな二人が夫婦として結ばれたが互いを好き合うあまりに仕事を疎かにし、その罰として天の川にて別れさせられた。それでも哀れに思われたから一年に一度だけ雁の橋を渡り二人は会えるのだ。
 哀しい話であり、自業自得の物語でもあるだろう。だが、そこまで愛し合えるという二人の関係は素晴らしいと思う。


 …………今の俺達に愛し合う資格はないのだから。裏切り、隠れ、見つからないように逢瀬を重ねる俺達には。


 七夕の話の続きだ。そこまで愛し合った二人が強制的に別れさせられたのだ。一年の、しかもたった一日で何をするだろう?
 会えなかった日々を互いに伝え合う? それとも喜びに浸って笑い合う? 緊張して何も言えない?
 そんな馬鹿な話はない。仕事も忘れる程の二人だぞ、それが一年も会えなかったんだぞ? 付き合い始めた初心な関係ではない夫婦が一年間も声すら聞くことも出来ないまま過ごしたのだ。
 少し年をとり、知識があれば分かるはずだ。そんな二人が何をするのかなんて。そう、今の俺達のように。



「んちゅ……む………あはぁ………んっ…………」
 キスと同時に侵入してきた舌に口内を舐め取られる。歯の裏まで忍び込んでくる舌の動きに蹂躙され、快感と共に力が抜けていく。貪るような激しいキスは彼女の想いなのだろう。
 俺も同じだ。舌と舌が触れ合った瞬間に搦めとる。少しざらついた感触を味わいながら、鶴屋さんの舌を舌で舐めあげた。
「あん……んちゅ………く………は………っ………」
 呼吸が出来なくなり、離そうとした唇を再び奪い合う。ぐちゅぐちゅと唾液の混じり合う音が耳下に響いて脳内を溶かし込んでいく。
「んん〜……んちゅ……」
 じゅるりと鶴屋さんの唾液が送り込まれてきた。何も考えられないままに全てを飲み込む。
 甘い。蜜を飲むかのように甘い。これが女だからなのか、鶴屋さんが特別なのか俺に知るよしもないのだが。ただ、甘い蜜を飲み込みながら舌を伸ばしてもっともっととねだり続けているだけで。
「んっ……ぐ…………んふっ……」
 奪われる。唾液を、心を、魂を。嚥下しているのは俺の体液だ、それを飲みながら鼻を抜けるような甘い声を出している彼女の腰を折れんばかりに抱きしめる。
 密着した二人の間に熱気のようなものが存在している。それは夏が招いた幻なのか、七夕という日が生み出した妄想なのか。
「は……ん……んむぅっ?!」
 腰に回していた手を下へ下げる。形の良い鶴屋さんの尻を撫で回すが抵抗などはなかった。ある訳がない、彼女がそれを望むのだから。
「うっ……!」
 鶴屋さんの手が俺の股間へと伸びる。ズボン越しに撫でながら彼女は俺の舌を唇で挟み、舌先を舐めている。上と下を同時に快感が襲う、その感覚に小刻みに震える身体を眼で笑う。
「ふふ………んっ………ちゅ……」
 鶴屋さんが唇を離した。そのまま耳元で囁かれる。
キョンくんの………もう………カチカチだね…………」
 声が耳ではなく脳をくすぐるようだ、微かな吐息と濡れた声が俺の背筋に悪寒のような痺れを走らせる。柔らかく動く指先が微妙な刺激で俺を狂わせて、
「はうっ?!」
 力が入りすぎた俺の手が鶴屋さんの尻を鷲掴みにする。しかし彼女は嬉しそうに、
「かわいいな、キョンくんは」
 言いながら俺の首筋に舌を這わせていった。股間に触れているのは指先から掌になり、全体を包み込むように撫でている。
 このまま鶴屋さんの思い通りにはさせない。俺だってまだ鶴屋さんを味わいたいんだ。と思う前に体は動いていた。
「むぐぅっ!」
 強引に鶴屋さんの顎を上げて唇を奪う。舌でこじ開けて口内を貪ると泣いているかのような引き声で、けれど抵抗など何もなく成すがままに蹂躙される彼女をもっと喰らいたい。
 左腕を腰に回したまま右腕は鶴屋さんの胸を鷲掴みにしている。抵抗はキスで塞ぎ、何も言わせないで乳房を持ち上げると感触が違うのに気付く。

 まさか、ブラを着けてないのか? 

 確かめる術は一つ。自らの手の感触しかない。ねじり込むように乳房を乱暴にまさぐると痛みのせいか初めて俺を押しのけようと手が動いてきた。しかし、それを片手で抑えながら無理矢理にでも胸を揉みしだく。
 塞いだ唇から呻く声。舌をねじ込んで唾液を流し込むと呻きながらも飲み込んでいく。お互いの呼吸を奪うような激しいキスと無茶苦茶な手の動きに脳が溶けていくようだ。
 服の上からでも分かるほど張り詰めた乳房に尖った乳首を掌で撫でる。嬌声をあげようとする鶴屋さんを締めつけるように抱きしめて声すら上げさせない。
「あ……ぐ………」
 抵抗どころか全身から力が抜けていくのが分かる。汗と唾液で濡れた顔が、焦点の合わなくなった瞳が、支えきれなくなって崩れそうな膝が俺だけを支えにしがみ付いている。
 自分の息も苦しくなって漸く離した唇。切れ切れになった吐息が彼女の現状を物語っていた。
「ふぇ………はぁはぁ…………あ……ぅ……」
 虚ろな瞳が俺を見つめている。意識があるのだろうか?
 
 だが、ゆっくりと伸ばした手は、間違いなく俺の股間へと触れていき。

「うっ?!」
 ジジ……とチャックを下ろされた感触。と同時に熱い鶴屋さんの手がズボンの中に入ってくる。
「っはぁ………はぁ……はぁ……」
 虚ろな目は俺の顔から視線を外さないままで手だけが別の意思を持っているかのように股間をまさぐる。喘ぐような、呻くような声にならない声を出しながら鶴屋さんは俺のズボンの前を器用に開けると下着もそのままずらしていった。
 
 既に熱り立ったモノが外気に触れてより硬度を増していく。当たり前だ、散々鶴屋さんの胸を揉みしだいておいて何もなっていないなんて有り得ない。

「はぁー……はぁ………」
 俺の目を見つめたまま、指先だけで俺の先端に触れる。ぬるりとした感触、先走った液が鶴屋さんの指を濡らしているのが分かった。
 じわじわと濡れた指が俺のモノ全体を撫でていく。自らの液で全体を濡らされたモノを鶴屋さんのしなやかな手が掴んだ。
「あぅっ!」
 ゆっくりと、分かるように手が上下に動かされる。形を確かめるように数度扱かれた俺の反応を妖艶なまでの微笑みで見つめていた鶴屋さんの瞳に光が宿る。
 俺は鶴屋さんの胸から手を離されている。快感が先行してそちらにまで神経がいかなくなったからだ。
 そんな抵抗も出来なくなった俺を見て鶴屋さんは。
「ふふっ……」
 微笑みながら舌で自らの唇を舐めた。薄明かりの下で滑る舌の妖しさに息を飲む。
 その舌は俺の首筋を這っている。汗を舐めとりながら、唾液の痕を残しながら。右手は俺を扱きながら首筋に舌を這わせ、左手はいつの間にかシャツの中に入れられて敏感になっている乳首を転がされている。
 何も出来ず、何も考えないままで俺は鶴屋さんにされるがままになっている。痺れるような快楽を前にして思考は停止してしまった。
「…………っ」
 無言のままで鶴屋さんの舌は首筋を這う。その軌跡はゆっくりと下方へと。
 シャツを捲り上げられ、夏の夜の熱気が素肌に触れる。熱い。暑さではなく熱さを感じるのは俺の体内の熱のせいなのか。
「っ!」
 素肌に直接鶴屋さんの舌が。胸板を撫でるかのように、滲んだ汗を拭うかのように舌が。
「は……うぅっ!」
 いきなり右の乳首を吸われた。それも力強く。痛みに似た感覚が背筋に走る、上から、
「!」
 舌が、鶴屋さんの舌が乳首を舐めている。男でも性感帯ではあるというが吸われ、噛まれ、舐められた乳首が痛いほど尖っているのが分かった。
 しかもその間も彼女の手は俺を握って扱いているのだ。
 
 これで感じない男などいない。

 腰から下の力が抜け、だらしなくしゃがみこもうとしても急所を抑えられているので力を抜くことすらできない。ただ成すがままに鶴屋さんから与えられる快感を享受するしかないのだ。
 麻痺したような下半身をどうにか支えながら、全身が性感帯になったかのように鶴屋さんが触れる箇所から快感が伝えられる。
 そんな俺の様子を目で追いながら舌と手の動きに集中している鶴屋さんの頭部が急に俺の視界から消えた。
 何を? と思う暇などなかった。
「うぁっ?!」
 突然だった。下半身を襲う強烈なまでの快感。じゅるり、という音が脳内に響く。
 鶴屋さんが、俺のモノを銜えたのだ。それも一気に喉の奥まで飲み込むように。白い光が目の前に飛び込んでくる、それ程までの快感が下半身を覆う。
「は……む………じゅ………じゅるっ……………」
 銜え込んだままで口内を舌で舐めまわす。リズミカルな位に顔を動かしながら窄めた唇で竿を扱く。唾液で濡れた部位が夜気に当たり、冷えそうになる前にまた熱い滑りに包まれていく。
「ん……ちゅ………くちゅ…………んはぁ…………」
 口の中に拡がった俺の先走りが混じった唾液を旨そうに飲み込んだ鶴屋さんが濁った瞳で妖艶に微笑む。
 ちゅるっと音を立てて先端に口づけ。そのまま吸い取る。尿道を走る刺激に目の前が暗くなる。
「あはぁ……んっ……」
 伸ばした舌が竿を舐め回す。尖端から雁首に、括れに沿うように舌が蠢く。ゾクゾクと背筋に快感を超える悪寒が貫く。
 まるで電流を流されたかのように手足が痺れている、それなのに一点に集中した感覚が跪く事さえ許さない。
「んふ……ん………くちゅ………んはぁ………」
 絖る舌はなぞるように裏スジを上下に舐めていく。そのまま絡め捕られ、唇で甘く噛まれて。
「あうっ?!」
 思わず声にならない声が出てしまう。何もさせてもらえないというより、指一本ですら動かしがたい快楽。性器以外がふやけて溶けていくようだ…………このまま溺れていってしまう………
「はぁ………はぁ………んちゅ………」
 鶴屋さんの舌はそのものに意識があるかのように俺のモノを舐めまわしている。温みと滑りが絶え間なく快感となって脳内を揺さぶる。
「うっはぁっ……!!」
 じゅぶっと音を立てて唾液を口一杯に溜めた鶴屋さんが一気に俺のモノを含んだ。散々舌で刺激された性器が生暖かい口内に包み込まれて、全体が緩やかに締め付けられる。
「んふっ……ん……じゅぷ……ぐちゅ………」
 頬を窄めた鶴屋さんが銜えたまま頭を前後に動かす。そのストロークに合わせたかの如く俺の腰が律動する。止まらない衝動に突き動かされ、鶴屋さんの頭を抱え込もうとすると、
「んふふっ」
 急に動きを止められた。それどころか口から俺のを引き抜く。唾液が先走りと混じり、鶴屋さんの唇と俺の亀頭を繋いでいるのが淫靡だった。
 だが、扇情的な絵面を見せつけられても実際に快楽を与えられていた部分が宙に浮いたのだ。俺は衝動的に鶴屋さんの髪を掴もうとさえした、が。
「うあっ……!」
 ニヤリと唇の端を上げた鶴屋さんが唾液に塗れた俺のを掴む。温みを帯びたそれが熱い手に包まれて上下に擦られる。ニチャニチャと艶かしい音と口内では味わえなかった激しい刺激が一気に感覚を高めていく。
 しかも彼女の攻めはそれだけではなかった。右手で竿を擦りながら、その顔は俺の下腹部に潜り込み、舌先は袋の部分を捉えている。
「ふっ……む……ん………っちゅ………」
 袋の皺に沿うように舌が這い回る。竿の部分よりも敏感な急所は痺れを伴う快感を俺に与える。軽く銜えられただけで腰が砕けそうになるのだ、まさに男の急所を抑えられている。
 無防備な性器を無防備な口で慰めるという行為。互いの弱点を曝け出しながら快楽のみを追い求める行動。決して種を保存するという本能ですら無い怠惰なまでの悦楽。
 それが口腔性交であり、俺は快感にだけ酔っている。ただ息を荒くして成すがままに鶴屋さんの舌技を甘受しているのだ。
「はむっ……じゅる……じゅっ………」
 玉を転がすように袋全体を口の中に収めた鶴屋さんの舌が踊る。その度に情けなく反応する俺の身体。
 唾液とカウパー液に塗れた竿を愛しげに頬ずりしながらしなやかな指先で扱き、袋をしゃぶりながら玉を転がす。裏スジに舌が這う感触に腰を浮かせながら反撃の余地すら見出せない。
「ふふ………」
 妖艶な笑みが俺を捉える。半開きの唇からたらり、と垂らした唾液を竿に絡ませて。にちゅり、と響くような音を立てて右手が唾液のローションを延ばしてゆく。同時に新たな快感が押し寄せる。
「あっ……うぁっ……………」
 限界だ、これ以上攻め続けられたら頭がおかしくなる! 咄嗟に俺は鶴屋さんの頭を掴んだ。
「うむぅっ?!」
 捩じ込むように鶴屋さんに銜えさせる。そして俺は。
「ふぐっ! むぅっ?! うっ……ぐぶっ!」
 強引に腰を振って鶴屋さんの喉を犯していた。八重歯が当たるが気にならない、熱を帯びた鶴屋さんの口内を蹂躙したいという思いだけが加速して暴走する。
「うぐっ! ぐっ! げぅ………」
 涙を流しながらも抵抗しない鶴屋さんの喉の奥まで突き入れる。苦しいはずなのに寧ろ舌を絡ませ、吸い込もうとすらしている喉が熱い。口内と違う滑りと締め付けが、絡み付こうとする舌が、僅かに当たる八重歯が、俺を狂わせる。
 髪を鷲掴みにして締めつける喉をこじ開けるように突けば、出し入れする度に唾液に塗れた俺自身が月明りで光っている。
「おごっ……ぐ………え……」
 吐きそうなのか? 嘔吐く声さえ誘っているようにしか思えない。いや、もう俺の頭の中は自分の快楽しか求めていない。
 泣きながら俺のモノで突かれ続けている鶴屋さんの口内を尚も犯しながら、俺は全身が痙攣するような痺れと目の前が白くなる程の目眩を覚えていた。
「お……うぅっ!」
 夜空には輝いていない星が目の中で白く光り、それが視界を被った瞬間。
「ごぶっ?!」
 凄まじいばかりの射精感と共に俺は鶴屋さんの喉の奥に精を放っていた。
「うあぁ……あ……」
 射精が止まらない。腰から下が別の生き物のようにビクビクと跳ねている。爪先立ちになりながら、鶴屋さんの頭を鷲掴みにして腰を押し付ける。
「うぐ……う……」
 何も出来ずに精液を流し込まれる彼女の姿は背徳感と嗜虐心を刺激する結果にしかならず、俺は思うざま射精の快楽に酔いしれていた。
 数時間? 数分? いや、恐らく数秒に過ぎないだろう。それだけの時間が永遠と思えるほどの射精が終わると足先から冷えてくるような痺れにようやく踵を着き、崩れ落ちそうな膝に力を入れる。
 まだ目眩が残る視界に最初に入ったのは、口元を抑えて蹲る鶴屋さんの姿だった。
「あ……」
 やりすぎた、と後悔が過ぎる。脳内に残っている熱が冷めていくのが分かる。思わず声をかけようとすると、彼女が顔を上げた。

「!!」
 それは、狂おしいまでに妖艶な笑みだった。


 あれだけの事をされていながら鶴屋さんは笑っているのだ。喉に射精され、口の中に残っている精液を吐き出そうともせずにニコリと微笑む鶴屋さん
「ん……」
 その頬が動いている。中で舌を動かしている。

 俺の、精液を咀嚼している。

「んぁ……」
 掌にどろりとした精液を垂らした鶴屋さんは見せびらかすように俺に視線を向けると、
「ん……じゅ………」
 その精液を再び口に含んだのだ。掌に残る精液も愛おしそうに舐め取りながら、視線を俺から外そうとしない。
 見せ付けているのだ、俺に。俺の精液を美味そうに飲み込む自分の姿を。
 そして、ゆっくりと鶴屋さんの喉が上下する。俺の精子を嚥下している。ごくりと飲み込む音さえ聞こえるようだ。
 凄艶な光景に息をすることさえ忘れていた俺に鶴屋さんは舐めるような視線を向け、
「……あーん」
 大きく口を開いて見せ付けた。
 何も、無い。
 大量の精液を全て飲んだ。それを見せ付けたのだ。
「んふふ………」
 まだ残る涙で濡れた瞳が星に照らされて輝いている。夜の闇の中で輝く目は俺しか捉えていない。
「もっと……だよ………」
 視線で俺を束縛したまま、鶴屋さんの唇は俺の性器に口付けていた。ちゅ、と尿道に残っていた精液すら吸い取られて俺は呻く。
「まだ………出来るよね?」
 立ち上がった鶴屋さんに抱きしめられ、豊かな胸の中で俺は生唾を飲むしかなかった……