『SS』 三年Z組 キョン八先生 5

前回はこっちですぜ、ダンナァ

 そんなこんなで三年Z組一同は近所の公園までやって来た。校庭辺りで良かったのではないかとの意見(眉毛)もあったのだが、せっかくなのでということで遠出をしてみたのだ。決して遠足ではない、だからハルヒが当たり前のように弁当を広げていてもこれは遠足ではないのだ。
「つか、ナンボほど食うんだ、こいつは」
 まあ食べてる間は大人しいので見て見ない振りをする。しかしハルヒといい長門といい、一体あの体のどこに栄養が行っているのだろうか? いや、ハルヒならまだ分からなくもないかもしれないが(主に胸部的な意味で)長門さんの場合には何だろう、脳を使っているからなんだと解釈してあげよう(胸部的な意味で)などとキョン八は思ったことは口に出さない。しかし、
「おい、俺も小腹が空いたから一口よこせ」
 そう言って横からハルヒの弁当のから揚げをつまみ食いはするのであった。
「あーっ! ナニするアルか、キョンちゃんせんせー!」
「うっせーな、堂々とした早弁してんじゃねーよ、お前も早く絵を描け」
「ちゃんと描くよ、あたしのテーマは『自分の好きなもの』ね!」
「なんでわざわざ公園まで来て酢コンブ描いてんだ、てめー! それなら教室でもいいじゃねえか! ほら、ベンチの上に置いた酢コンブが風に飛ばされて落っこちそうですよー!」
 慌てて酢コンブを拾おうとするハルヒを放っておいて、キョン八は木陰で一眠りするかと早々にその場を離れたのであった。
「ふう、やれやれだ………」
 元ネタと同じ口癖を呟きながら木に寄りかかって目を閉じる。ゲームよりも睡眠だ、後は連中が描けばいい。基本的には放任主義なのだ。
「だからサボってるだけじゃないのよ、どうすんの? みんなも描く気まったくないみたいだし」
 そう言いながら筆を動かす朝倉。本当にこいつは真面目なのだった。
「大丈夫だ、お前らみたいに名前が出てこないエキストラの皆さんがとりあえず枚数だけは稼いでくれてるからな」
「いや、それクラスメイトであんたの生徒ですから!」
 ツッコミを入れながらも筆を止めない朝倉。何を描いているのかと思えば、
「なんで長門なんだよ」
「だって好きなものを描くんでしょ?」
 本当に公園まで出てきた理由など無くなっていた。というか、特徴を捉えすぎている長門を何も見ずに描ける朝倉さんが怖かった。なのでキョン八は見なかったことにして昼寝へと移行することにした。見てみない振りをするのもまた教育である。
「こんなのでいいのかしらね、大体こういうのはクラス委員長の役目なんじゃないかしら」
 最早ツッコミではない愚痴をこぼしながら朝倉は目の前にはいない長門の全身像を描き上げようとしていた。ちなみに全裸である。公園のベンチに座り全裸の女性像を描いているのである。こいつも矢張り歪んでいたのだった。
「ねえキョンくん、長門さんの乳首の色って何色かしら?」
「先生と呼べ。後、ナチュラルにセクハラな質問をするな。ついでに言えば長門の肌は色素が薄いから乳首は白っぽいピンクだ」
「……………まるで見てきたように答えるのね」
 笑顔の朝倉涼子の手には筆の代わりにナイフが握られていた! 危うしキョン八! というか、本当に何故長門の乳首の色を知っているのだろうか。それは別の話なのかもしれないが、キョン八は今まさに命の危険を感じていたのである。青ざめた顔でキョン八は後ずさりするしかない。
「な、何言ってんだよ、あいつの肌が白いのはお前だって知ってるだろうが? 想像だよ、そ・う・ぞ・う!」
「うん、し・ん・で・☆」
 ギャーッ! とか、アーッ! とか以下略。
「ったく、冗談も通じねえのか」
 キョン八は愚痴りながらタバコに火を点けた。頭頂部にナイフらしきものが刺さったままなのも冗談なのだろう。
「あれ〜? もう夕方かよ、最近は陽が落ちるのも早くなったなぁ」
 それは彼の視界を真っ赤に染めている鮮血のせいであるのだが、多分無かった事にしたいのだと思われる。いや、本当にギャグ補正があってよかった。
「頭も重いしなぁ…………飲みすぎたかもしんねーなー………………」
 しかしギャグにしても出血多量である。頭は重いのではなく意識が混濁しているからである。いや、本当に死ぬ。ギャグなのに、主人公なのに、乳首が原因で死ぬのである。長門の。
「って、そんな死に方あるかーっっ!!」
 と大声でセルフツッコミをかましたところで、
「あ…………やべ」
 脳天から噴水のような血の雨を降らしてキョン八は気を失った。ツッコミ属性を持った者ならではの悲劇である。
 そして物語はここから怒涛の急展開を見せることと相成ったのであった。
 はい、ここでコマーシャル。



『龍泉堂本舗の同人誌は全国のメロンブックスさん及びとらのあなさんにて絶賛もされずにひっそりと委託中! 正直残り冊数結構あるので捌けてくれないと! あとは売り切れてたら是非追加してくれとリクエストよろしく! ほんと在庫抱えちゃったらシャレになんないんで!』
「え? 本当に宣伝してるよ、この人?! しかも一方的かつ自分勝手に! 誰も買わないよ、こんな宣伝じゃ! これならまだヤマツチモデルショップの方がマシだったよ!」



(BGMと共にタイトルロゴ)
「どっちの?!」
 もちろん銀魂です。さっきからのツッコミは全て朝倉涼子がお送りいたしました。
 で、本編に戻るのだが。
「いっけェェェェェェェェェェェッッッッ!!!!」
 それはまるで虹のごとく大きな美しい弧を描いていた。ロングフィードの際に右肩の負傷を悪化させた若林が膝をついて蹲りながらボールが描く軌道を見守る。
 岬の出したラストパス。それをダイレクトで打ったノートラップドライブシュートは勢いを増してスペインゴールへと襲い掛かる。
「グオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!!」
 必死に手を伸ばすキーパー。しかしボールはその手をすり抜けると地面でバウンドして再度軌道を変えたのだ!!
「な、なにィッ?!」
 まるでキーパーをあざ笑うかのごとく逆方向へと跳ねたボールはゴールへと突き刺さり、その威力はゴールネットを突き破ったのだった。そしてボールは勝利への階段を駆け上がるように天へと昇ってゆく。
 ここで、ホイッスルが高らかに鳴り響いたのであった。
 鳴り止まぬ歓声、アナウンサーの『日本、優勝です! ついに黄金世代がワールドカップを制する! 今、我々は歴史が変わる瞬間を目撃したのですっ!』という涙声の実況がスタジアムにこだまする。
「翼!」
「翼ァ!」
 日向が、岬が、松山が、ゴールを決めたキャプテンの元へと駆け寄っていく。
 そしてキャプテン翼は静かに感動の涙を流していたのだった………………








「って、全然違う作品じゃないのよォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!」
 朝倉ならずともツッコミたくなる駄文から始まったのだが申し訳無い。しかしツッコまれた当の本人は、
「いや、あれ俺がシュートしたから。ナイフで刺された後に気を失った俺がロベルトに命を救われてブラジルで修行した成果があのフライングドライブシュートだからね?」
「いや、思いっきり翼って言ってますから! キャプテンで翼くんって言っちゃってますからね?! しかもキャラクター全員そっちの人間しかいなかったしィ! もうハルヒでも銀魂でもねえじゃねえかァァァァァァ!!」
 地団駄を踏んでツッコむ朝倉。本当にご愁傷様です。だがキョン八はしれーっと、
「あれも俺の名前なんだよ。そう、ミドルネームってやつ? 正確には坂田=キョンパチ=翼だから」
キョン八がミドルネームかよ?! しかも外人風になっちゃったよ!」
 だめだこいつ、はやくなんとかしないと。朝倉は再びナイフを取り出そうとした。
「朝倉、今度俺が気を失ったらワンピースを探しに旅に出るかもしれん。その時はお前が射撃手だからな」
 脳内に長い鼻のツッコミ要員が浮かんでしまい、思わずナイフを取り落とす朝倉さんでした。つか、私ってやっぱりツッコミ要員なんだ……………そっちもかなりショックなんですけど!
 思わず跪いた朝倉に、キョン八が優しく微笑みかけた。
「どうしたいんです? 朝倉くん」
安西先生………………………」
 ブワッと涙を流す朝倉。
「バスケが…………したいです………………」
 大黒摩季の曲をBGMに、体育館は今、温かい空気に包まれたのであった。なんだ、この三文芝居。