『SS』ヒトメボレらぶぁ〜ず そのはち

古泉は分からないと言っていたが、俺にだって心当たりといえる場所は少ない。
ここからなら一番近いのは……………屋上だが、そこなら古泉から見えるはずだ。中庭も同じ理由で無いな。
ということは、部室に俺が居た時点で行き場所はここしかないわけだ。まったく、それなら最初から俺もそこに呼べばいいだろう。無駄に走らせるんじゃねえよ。
毎朝同じ様に開ける教室の後ろ側のドアを俺が開けた時に、ハルヒは自分の席でうつぶせていた。いい気なもんだ、俺に走らせて自分はお休みか。
まあ分かりやすかったからハルヒにしては上出来と言えるのかもしれんな。
「まったく、随分な扱いだな。」
ため息を一つついて、俺は自分の席に着いた。
「ん…………」
よう、ハルヒ
「なによ、こんなとこにまであんたに会うなんておかしいわよ。」
おいおい、お前が呼んだんだぞ? そうも言えないんだが俺は代わりに、
「俺はお前に会えたんで嬉しいがな。」
と言ってやった。
「なっ?!」
みるみる顔が赤くなるハルヒ。その様子が可笑しいので、つい言葉を繋いでしまう。
「それとも古泉の方がよかったか?」
「バ、バ、バカな事言うなあーッ!!」
ついに立ち上がって叫ぶハルヒ。お前、真っ赤だぞ? そんなハルヒを見ている俺は間違いなく笑っているな。
「………………なに笑ってんのよ。」
「別に。」
俺は笑いながら答える。お前が可愛いからだ、とは言えないからな。
「ふん!」
ふてくされたように椅子に座りなおすハルヒ。そのまま俯いて押し黙ってしまった。我慢比べならこいつには負ける気がしないんだがな。
しばしの沈黙。
やっぱり口を開いたのはこいつからだった。
「ねえ………………あんたさぁ、本当のところ古泉くんの事どう思ってんの?」
まだそれが気になるのか、やれやれだな。俺が男だって事を知らないにしても、そんなに気にするもんかね。
「あいつはいい奴さ。」
胡散臭いとこもあるがな。
「だがお前が思うところの恋愛感情というものは存在しないぞ?」
第一俺は男だっつうの。
「しかしSOS団にとってあいつは無くてはならないものさ、それは長門だって朝比奈さんだってそうだ。」
そうさ、SOS団はあいつら全員が揃ってこそなんだからな。
「だからあいつをクビになんかしないでくれないか?」
俺はそれだけ言って頭を下げた。まあこれは古泉の奴には貸し一つということにしておいてやる。
「………………ほんとに? 古泉くんとは何もないの?」
「あってたまるか、俺にだって選ぶ権利ぐらいはあるぞ。」
「…………………」
なんだ、まただんまりか?
「それなら………………キョン子にはその、す、好きな人とかいるの?」
はあ?! お前が恋愛話、しかも俺のかよ!! どういう風の吹き回しだよ!?
「あー、まあ、そのー、なんだ?」
いかん、なにを話せばいいのかさっぱり分からん。と、俺の耳に長門の声が蘇る。
『あなたの、涼宮ハルヒの言葉を信じて』
そういうことか、それでいいんだな長門
俺は……………
俺の話すことは………………
そうだな、あいつの事でいいんじゃないか?
「ああ、好きかどうかはまだはっきりしないが、気になる奴ならいるな。」
「え? あ……………そうなんだ………………」
俯かなくていいぞハルヒ、俺が言う事を聞いていてくれればいいんだ。
「そいつはとにかく我儘で自分勝手な奴でな? 俺なんかは振り回されっぱなしだ。」
「………………」
「いつも俺の意見なんか聞かないくせに、俺の手を引っ張って「いくわよ、キョン!!」てな感じで連れまわすのさ。」
キョン?」
「それで今度は俺が女にまでなっちまった。」
「ちょ、ちょっと待って! あんた何言ってんの?」
「まあ聞け。ところが俺は女になっちまったんで、その気になる奴とやらにも相手をされそうもないのだが?」
「え? えぇ? それって…………?!」
「ああ、元は男だからな。気になる相手はもちろん女だぞ。」
「あ……………」
おいハルヒ、なんでお前が赤くなるんだ?
「う、うっさい!!」
ところでハルヒ
「な、なによ?」
俺がここまで言ったんだから、お前の話も当然聞かせてもらえるんだよな?
「な、な、な、なんであたしが!?」
俺はちゃんと話したんだからな、団長も責任とって自分の話をしやがれ。
「……………わかったわよ! あんただけなんだからね? こんな話するのは。」
そうかい、そいつは光栄だね。
「あたしにだって、その、気になる相手? ってのくらいいるのよ。」
ほう、それは気になるな。
「そいつってば、いっつもボーっとしてるような顔してるくせに妙に偉そうというか皮肉なこと言ったりしてんの。」
なんだかずいぶんな言われ様だな、そいつも。
「しかもみくるちゃんや有希なんかとは仲良さそうに話してるくせに、あたしには仏頂面。」
そうか? そりゃそいつも気を使えってもんだな。
「おまけに古泉くんとはいっつもヒソヒソ話しちゃってさ。」
…………………それはさすがに何も言えんな。大体お前が聞いたらやばそうな話になっちまってるからな。
「あたしも、何でそんなあいつの事見てんのか分かんないのよ!!」
そうだな、俺も何であいつを見てんのか分からないよ。
「あーもう! キョン子! これ絶対に内緒なんだからね?!」
はいはい、わかってるって。ただ、なあ?
「なによ!」
俺が気になる奴にしても、お前が気にしてる奴にしてもだな?
「う、それがどうかした?」
とにかく戻らないとそいつらに会えないんだ。
「なに言ってんの、あんた?」
わかってんだろ? 俺は男としてお前に会いたい。お前だってそうだろう、お前の前にいるのは女なんだぞ?
「え……………」
だから気になる俺に会いに行ってやってくれ。とりあえず俺はお前の事が気になってしょうがない。
「それって…………?」
俺は目を閉じてハルヒの唇に自分の唇を重ねた。これだっておかしなもんさ、俺は少なくとも男としてやった方がいい。
二回目のハルヒの唇はやっぱり甘いような気がした。
とにかくここから出るにはこれしかない、というかこれしか知らないんだから一か八かでやってみたんだが、
「な、なにすんの! この、バカキョーン!!!!」
と言うハルヒの叫び声と共に俺は突き飛ばされ……………





「痛えっ!!」
思いっきり頭をぶつけた時にはベッドから転がり落ちてたって訳だ。ああチクショウ、今度は確信犯だ。もうフロイト先生にも笑われる訳にはいかねえな。
だから銃もいらないぞ、首ももちろん吊らねえ。
ようやく戻れたんだ、あいつの顔を見るまで死ねるか。いや、顔を見ても死なないけど。
頭を触って自分の髪の長さに安心し、胸がないことを少し残念に思ったりもしながら俺は眠りについた。
快眠できたよ、やっぱり男だな、俺は。



そして登校した時にあいつを見て確信したのさ、男でよかったってな。
窓の外を見ているちょんまげのようなポニーテール。
女の俺よりもしっくりきてる。
「よう、調子はどうだ?」
俺は話しかけながら自分の席へ。相変わらず外を眺め続けているそいつは、
「最悪ね、夢見が悪すぎだわ。」
そうだろうな、でも俺はこうしてお前に会えてよかったぞ?
「なあハルヒ?」
「なによ?」
「やっぱりそれ、似合ってるぞ。」
こんなこと言えるのは俺が男で、お前が女なんだからな?





これは余談になるが放課後、ハルヒが掃除当番で部室に来る前に長門に今回の件の原因を聞いてみた。
「これが要因。」
そう言って長門は1冊の本を俺に手渡した。漫画?
涼宮ハルヒは先日よりその作品を熟読していた。」
それでなんであんなことに? 俺はパラパラと数ページめくる。
「な、なんだこりゃ?!」
それは男子高校生同士の恋愛模様を描いた、あー、俺なんかにはまったく理解不能なシロモノだったんだ、これが。
「美少年同士の肉体関係を含めた恋愛ドラマ。いわゆるボーイズラブ。BLと呼ばれるジャンル。」
解説しないでくれ長門。ということはだ、まさか………
「そう。涼宮ハルヒはあなたと古泉一樹が恋愛関係にある、もしくはそれに近い感情があるのではないかと推測した。」
最悪だ、最悪の発想だ!!
「しかし彼女の常識的モラルでは許容しきれなかった為に、この場合におけるカップリングでいうところの『受け』に当たるであろうあなたを女性化することで事態の安定をはかろうとした。」
えらく詳しいな長門。というか『受け』って……………俺、そんなイメージなのか?
「強気受け、もしくはヘタレ攻めの場合もある。私は、あなたは状況に流されてのヘタレ受け推進派。」
おい! なんか不穏なこと口走らなかったか、今?!
「とにかくあなたが女性となったことにより、古泉一樹との関係に於いては問題がなくなった。しかし、それは彼女にとってあなたという存在を喪失したこととなる。その矛盾が今回の世界崩壊の危機の原因。」
なんとまあ、ハルヒが勝手に読んだ漫画の影響で俺は女にさせられたあげくに世界は滅びかけたってのか。
「それにしても俺の自業自得ってのは何だったんだ?」
その言葉に長門の目がジットリとなり、
「あなたは古泉一樹と接近して話すぎる。自業自得。」
な?! それはあいつがいつも耳打ちするような話しかしないからだろうが! 俺は被害者だ!!
「それならば私とも耳打ちで話をすればいい。それで解決。」
いや、それハルヒに見つかったら古泉以上の大問題だろ!
「…………あなたももっと自重するべき。」
そうするよ………………なにかドッと疲れてきた。
しかしハルヒの奴、どこからそんないかがわしい本を……………
「私の秘蔵の1冊。」
お前か―――――――――ッッッ!!!!!




もっと余談だ。その後、どこから手に入れたか宇宙人しか知らないだろう、救世主の母親が見ている学校の小説を読んだハルヒのせいで俺は再び女になってしまい、小難しい薔薇の名前をスラスラと述べる女性陣にやれ妹だ、お姉さまだと追いかけられるはめに陥ったのは全然違う話だ。
そういうことにしておいてくれ、頼むから。

言い訳という名のあとがき

いやー、いっちゃんが楽しかった(笑)ちょっとハルキョン風味も試したかったしね。
最後のへんは最近買ったキョン子本の影響が強いなあ(苦笑)
まあ、キョン子はブームが去りそうもないので、もう何回かはいけるのではないかと。
では次は短編か「ちいさながと」で行こうかと思ってます。