『SS』キョン……、の消失 14

妙に威厳のありそうな初老の紳士が運転する(この人もどこかで見た気がするがドラマの見すぎだわ)車内で謎の女性、古泉一姫と二人。そういえばこいつも北校の制服を着ている。
どうでもいいがそんな短いスカート穿いてて視線が気にならないの?おまけにその、なんというか胸が……………正直これも気に食わん。どうせあたしなんて、ふん。
「さて、私のいきなりの提案にお付き合い戴きありがとうございます。」
従わなかったらどうなるか分からんからな。
「いえいえ、私たちは何も貴女に対して危害を加えようというものではありません。むしろその逆だと思っていただきたいのです。」
そして古泉の奴はその顔にスマイルを貼り付けたまま、
「実は私、超能力者なんです。」
などととんでもないことを言い出す訳よ。はあ、そうですか。それより近すぎる、胸が当たる。不愉快だ。
「おや、やはり驚かないようですね。」
いや、呆れてるだけよ。てことはあんたはスプーンを曲げたり何かを宙に浮かせたりコーヒーを温めたりできる訳?
「そういう目に見えるものはちょっと。でも貴女が考える超能力は恐らく違うものではありませんか?」
そうね、あたしはそんなもんじゃない超能力を知っている。実際に目の当たりにしたこともある。
「あんたは橘のお仲間ってことなのかしら?」
それしか考えられないわね、この場合。
すると古泉は肩をすくめ(これが絵になるのも気に入らん)、
「厳密に言えば違います。そうですね、信仰する神が違うとでも言いますか。」
なんだそりゃ、お前は佐々木の内面世界に入れるやつじゃないのか?
「内面世界ですか、私たちは閉鎖空間と呼んでいますが。」
閉鎖空間!なんであたしはこの言葉を知っているんだ?!
「まあ呼び方などはどちらでもいいんですが、その閉鎖空間とは実は佐々木さんだけのものではないのですよ。」
そりゃ初耳だ、あんなことを出来るやつが佐々木以外にいたとはな。
「私はその閉鎖空間限定の超能力者という訳ですね、そしてそれは佐々木さんのものではない。」
それであたしに何の用事なのかな、この自称超能力者は。
「まずはご挨拶だけでもと思いまして。少なくとも我々の存在を認識していただこうというのが前提なんですよ。」
よし、お前の存在は今晩寝たら忘れてやる。
「貴女もつれないですね、まあらしいと言えばらしいのですが。」
こら、なんで初対面の奴にそこまで言われねばならんのだ。
「ああ、そうでした。どうも貴女とは初対面とも思えなくて。何故だか親しさを感じてしまうのです、すいません。」
同姓とはいえ、これだけの美人にこれだけ言われると悪い気はしないはずなんだが何かうさんくさく感じるのは何故なんだろうね。
「本題に入りますと私はある人物の閉鎖空間に入ることが出来るのですが、最近その閉鎖空間の発生する頻度が増していまして。」
そっちの空間とやらはいつでも入れるもんじゃないのね。それよりも、だからお前らがいるんだろうが。それにあたしが何の関係があるのよ?
「いえ、こちらの神にも一度会っていただきたいのです。そして我々の力になっていただきたいのですよ。」
断じて断る。なにが悲しゅうて今よりも面倒なことに巻き込まれなきゃならんのだ?
「やはりそうですか。まあいきなりで全てを信じてもらえるとはこちらも思っていません。またお会いできる機会には是非閉鎖空間にご招待させていただきますよ。」
嫌だと言ってるじゃないの。まったく、結局なにが言いたいのか分かんないっての。
と、今まで走っていた車がこれまた静かにストップした。
「今日のところはこのへんで。あまり遅いと親御さんにも『組織』にも余計な心配をかけてしまいますしね。」
ちょっと待って、あたしの方も聞きたい事があるのよ。
「私に答えられる範囲でなら何でもお答えしますよ。」
まず、この間あたしが会った長門くんとあんたは何か関係あるの?
「ああ、長門さんに会ったんですか。はい、私と長門さんはその人物を中心にした、そうですね行動を共にするものと言っておきましょう。」
この口ぶりだと長門くんとこいつが口裏を合わせて行動した訳ではなさそうね。でもこいつのことだ、そう言いながら何かしてもおかしくない。何でこいつに関してこう思うのか知らないけど。
あんた達は橘の『組織』とは関係ないのね?
「ええ、彼女の『組織』と私たちの所属する『機関』とはまあ敵対していると言っても過言ではないでしょう。向こうからすれば私たちは異端者そのものでしょうから。」
『機関』? また聞いた事ないはずなのに聞きなれた言葉があたしの耳に入ってくる。
「覚えて欲しいのは神は一人ではない、ということなんです。」
古泉は笑顔のまま、
「とはいえこちらの神は力不足なのは否めません。佐々木さんこそが神という彼女たちの主張も頷かざるを得ないのが実情です。」
そういって肩をすくめる。どうやら神といってもたかが知れてるようだ。あたしが会ってないからかもだけど。
「ではこれ以上は流石に予定時刻を過ぎることになりそうなので。」
待って、最後にもう一つだけ。
「なんでしょう?」
あんた達みたいなのはまだいるの?
「それは……………禁則事項です。」
と言って古泉はウインクなんぞしてみせた。おい、それは違うだろ!
何が違うのか分かんないけどそう言うしかなかったのよ。
それで会話は終わり、あたしは家の前で車を降ろされた。結局グルグル走り回っただけなのかな?
「はあ、やれやれだわ。」
あたしは重い足を引きずるように家へと入った。なんだかこんな感じを前にも、いや何回も味わっている気がする。
それにしても宇宙人の次は超能力者ねえ。これで未来人がいたら佐々木の周りの面子が勢ぞろいってことね。北校も賑やかなことで。
苦笑するあたしはこんな事を思っていたことをすぐに後悔する。
何故なら、北校とは本当に賑やかな所だったのだ。
だってあたしは未来人に会ってしまったのだから。藤原さん以外の、という注釈付きの。