『SS』キョン……、の消失 4

九曜が何冊目かの文庫本を読み終え、パタンと机の上に置く。
その音が合図のように帰宅を促すチャイムが校内に鳴り響いた。
「さて、我々も帰るとしましょうか。」
パソコンの電源を落としながらの佐々木の言葉で、あたし達の部活はおしまい。
なんとなくこれがいつもの流れになってるのよね。
「さあとっとと出ろ、鍵は僕が掛けておく。」
藤原さんがこれまたいつものように最後だ。
「なんですか、いっつもえらそうに。」
「上級生として当然のことだろう?いいから先に行け。」
実はこの後に一人で洗い物を片付けていたりするから、意外にマメよね。
「では先輩、よろしくお願いします。」
「―――――――あと―――――で―――――」
「あ!佐々木さん、九曜さん?!んもう、待ってくださいよー!」
バタバタと橘が二人の後を追う。ほんと懲りないな、あいつも。
その後をあたしも追いかけようとしたんだけど、
「おい。」
藤原さんに呼び止められた。なによ?嫌味なら橘に言って欲しいんだけど。
「お前、何があった?あの姦しい超能力者はともかく、僕や宇宙人には通じないぞ。」
やっぱりお見通しってワケね。佐々木がいる時とは口調も違い、少々乱暴なのは藤原さんが素の自分を出してるからなんだろう。
少なくとも未来から来た、というこの先輩は何かとこの時代に不満があるご様子なのだ。
そして宇宙人の、なんだっけ?なんとか領域とやらのインたらかんたらが周防九曜
超能力者ってのはもちろん橘のこと。
つまり宇宙人、未来人、超能力者が佐々木の下に集まってるってのがこの奇妙な団体なのだったりもする。
それは今から4、いやあたし達は2年になったから5年前かな?佐々木にワケのわからん力とやらが目覚め、それぞれが監視やら何だかでやってきたらしい。
詳しくは長くなるけど、なんだか知らない普通人代表のあたしは何故だかそんな集団の一員になっているのだけは確かなのよね。
九曜いわく、
「あなたは―――――――選ばれた―――――――『鍵』。『扉』は――――――――『鍵』と共にあるべき―――――」
などと言っていたが、もちろんよくわからない。
ただ、この奇天烈な連中と1年も一緒に過ごせば愛着もそれなりに湧いてくる。
ううん、あたしはもう望んでここにいるんだから。
それは去年の年末にあたしが選んだ道なのだから。
あたしは藤原さんに聞いてみることにした。九曜にまず聞くつもりだったんだけど、まあ未来の影響を考えておくのも正しいかもしれない。
「藤原さん、今は未来に何も起こってませんか?」
「なんだ、いきなり?………………ふん、何の影響もないがそれがどうした?」
あたしの言葉にしばし天に向けて耳を傾けていた藤原さんはそう答えた。どうやら未来的には規定事項なのかも。
あたしは一応、朝から感じてる違和感をかいつまんで話した。
「む…………僕の知る規定事項にそんな項目はないぞ?」
なんですって?!じゃあ、これは緊急事態じゃないの!
「いや、まだ解らない。不確定要素が多すぎる。禁則事項になるから下手な話も出来ん。」
そうか、ならやっぱり九曜の領域の話なのね。
「…………こちらでも上に掛け合ってはみてやる。僕の知らない規定事項などあるわけがないからな。」
えらい自信だなあ。
『わたしは何も知らされてないんです………』
ああ、あなたはそうなんですよね…………って誰?!女のあたしから見ても守ってあげたくなるような可愛い女の子の泣きそうな顔。
「………………なんだ?」
いえ、なんでもないです。現実には藤原さんの不機嫌そうな顔なんだよね。
「一応、橘の奴にも声をかけておけ。万が一、佐々木が原因ならあいつの担当だ。」
九曜に話すのは分かってるのか藤原さんはそう言うと、
「だがあいつに分かってるとは思えんがな。今だって呑気なもんだ。」
苦々しく笑って背を向けた。なんというかもう少し爽やかに笑えれば、それなりに見れるものになりそうなんだが。
「何時までそうしてる気だ?いい加減、佐々木たちと合流しないとまた橘の馬鹿が妙な事を言いかねん。」
藤原さんは?
「僕には僕の用というものがある、要はお前が移動さえすればいい。」
はいはい、確かに今あたしがここにいても仕方がない。佐々木たちが待つ玄関へと急ぐとしますか。
藤原さんがドアを閉めながら袖捲くりをしてるのをチラッと見て、あたしは玄関へと走った。