『SS』ちいさながと 17

で、昼休みなのだがハルヒがいつものように飛び出さない。
まだ俺に気を使ってるつもりなのだろうか?ありがたくもあるような不気味なような。
仕方ないので声をかける。
「おい、飯はいいのか?食堂が混んじまうぞ。」
「え?あ……うん…………」
やれやれ、そんなに落ち込むなよな。古泉が泣くぞ、いろんな意味で。
俺は包帯を巻いた右手でハルヒの頭を撫でてやる。
「ちょ、ちょっと!なにすんのよ?!」
「ほれ、俺の腕ならもう何でもないからとっとと飯を食って来い。」
「もう!わかったわよ!あんたこそご飯食べたらおとなしくしとくのよ!!」
と言いながらハルヒは教室を飛び出した。まあこれで機嫌が治るならよしとするか。
それよりも俺には大事な用がある。
俺は弁当を取り出すと教室を後にした。
死んだままの谷口は無視して国木田にアイコンタクトを取ると、
『まあ涼宮さんには上手く言っとくよ。』
と言ったようだ。持つべきものは友だな、WAWAWAじゃない方の。
弁当を片手に、長門を肩に俺は旧校舎へと向かう。
いつもの光景、いつもの部屋っと。
俺はSOS団の部室へ入る。鍵?長門がいるのに鍵がいるのか?実際簡単にドアは開いたしな。
そしていつもの長机の前に陣取る。
さて、弁当を置いたのだが、長門が降りる気配がない。というか俯いたまま動きもしない。
はあ…………こいつもだよ。
「おい長門、いい加減に降りてくれないと飯もおちおち食えんのだが?」
「……………………」
黙って降りたよ。しかも正座で机の上に座って。
「さ、弁当でも食おうぜ。」
「………………私のせい。」
やっぱりな。
「あなたを守れなかった。」
別にいいって。
「その上、私を庇って傷つけてしまった。すべて私のミス。」
あー、なんでこいつらは勝手にやって勝手に落ち込むかな。
俺は弁当の蓋を開けながら小さくため息をついた。
まあ長門に落ち込んでられていても仕方がない、長門の俯いた顔なんてハルヒの落ち込み顔より精神的に悪いんだ。
俺は怪我した手で長門の頭を撫でる。
「な?大丈夫なんだって。」
「…………見せて。」
はい?
「怪我。」
ああ、いいけど…………
俺は包帯を外し、ガーゼを取る。しかしハルヒの奴えらくしっかりと巻いてたんだな。
長門は俺の傷口をジッと見つめている。ハルヒも言っていたが、本当に大した事なさそうだな。
すると長門はいきなり俺の傷にキスをした。
「な、なあッ?!」
俺の驚愕などなかったように、
「治った。」
長門は淡々とそう言った。見れば確かに傷口が塞がっていた。
「あ、ああ、ありがとな。」
長門なら当然治せるよな、このサイズだったとしても。
「………………………いい。私にできるのはこれくらい。」
そんなことないさ、十分すぎるぜ。
今度は完全に治った手で、もう一度長門の頭を撫でてやった。
黙ってされるままの長門の顔が、少しだけ嬉しそうなのが俺にとっても嬉しくなったのはなんでだろうか?
「さあ、今度こそ飯だ。時間がなくなっちまうからな。」
1ナノの肯定。機嫌も直ってなによりだ。
それから俺達は弁当を半分ずつ食べた。
長門のために米を数粒づつ取っていたので結構手間だったが、長門の食べるペースが速いせいか時間はかかってないと思う。
俺の箸使いもなかなかだと思うぜ。
朝飯を抜いた俺にとっても、いつもの長門にしても、どっちにも物足りない気がしたのはご愛嬌ってやつだね。
終了のチャイムが鳴る前に俺達は教室に戻り、ハルヒの機嫌も元に戻っていた。
なんとか放課後までは持ちそうだな。
安心したせいか、5時間目から放課後のチャイムまで俺の記憶がないのはまあ勘弁してくれ。
「さあ、部室に行くわよ!!」
俺の記憶を呼び起こしたのはこのセリフだからな、いい睡眠学習だったんだろう。
「完全にノンレム睡眠だった。あなたには何も聞こえていない。」
そうだろうな。