『SS』ちいさながと16

ホームルームは滞りなく終わり、いよいよ授業のチャイムが鳴る。
すると長門がなんと俺の肩の上で反転し、ハルヒの方を向いたのだ。
おい、なにしてんだ?!とは言えハルヒに気取られる訳にはいかない。
「……………これは涼宮ハルヒの授業風景を再接近で観察できるまたとない機会。」
俺の耳に直接長門が語りかける。ハルヒにはばれないだるうが、くすぐったい。
「言うなれば瓢箪から駒。」
いや、あまり動かないでくれ。お前はいいかもしれんが俺の心臓はいちいち止まりそうなんだぜ?
それに授業中のハルヒなんぞ見ても面白くも何ともないぞ。
大体外を見てるか、寝てるか、
「ねえキョン?」
こうして俺にちょっかいをかけるかなんだからな。
俺は背を向けたままハルヒに答える。
「なんだ?」
「なんで朝なのに団長に挨拶の一つもないわけ?」
「いや、何か考えてるのかと遠慮しただけだ。」
谷口とのやりとりにも無関心だったくらいだからな。
「ふーん、あんたにしては珍しいぐらいの気遣いね。」
いや、俺は空気を読むのは得意なほうだぜ?どこかのWAWAWAと違ってな。
「……………………」
なんだ長門、何か言いたくても今は我慢してくれ。
そのままハルヒは窓を見つめているようだ。
ああ、このまま無事に過ぎてくれよ。
という俺の願いが通じたか、なんとか無事に1時間目終了。
休み時間を利用してトイレの振りをして教室の外へ。
誰もいない廊下で長門に再確認する。
「おい、ほんとにハルヒには見えてないんだよな?」
「大丈夫、ステルスは完璧。」
あの長門がここまで自信有りげに言うんだ、信用するしかない。
ただしハルヒの直感てのは俺達、いや宇宙人ですら想像を超えたところにいやがるからなあ。
そんな俺の心配はある意味的中した。
事件は2時間目に起こったのだ。
授業が始まるとすぐに背中に小さな痛みが走る。
いつものハルヒのシャーペン攻撃だ。
大した事はないんだが、たまにクリティカルがあるのがキツイ。
制服に黒い跡がつくのはまだしも、背中にまで届いてる事もあり、それはとてもじゃないが我慢できるものではない。
だからタイミング良くハルヒの方を向かねばならず、結果教師の冷たい目線を浴びるはめになるのだ。俺は何か悪い事したか?
ツンツンと何度かの攻撃。
無視だ、無視。なにより長門もいるから睡魔すら我慢してるんだぞ。
そのうち攻撃が強く……………………………………ならない?
なんだ、珍しく諦めが早いな。
そう思い、横目で後ろを伺うと…………………………なあッ?!
なんとハルヒのシャーペンを長門がことごとく止めていたのである!
シャーペンが背中に届く前に長門がキャッチし、俺に当たらないようにしている。
だから俺も気付かなかったのか。
しかし長門が見えていないハルヒからしてみたら俺が無視しているようにしか見えない訳で。
いかん、不機嫌オーラがどんどん増していってる!!
それに伴いシャーペンの突き刺すスピードも上がる。おい、それを俺に突き刺すつもりか?!
その全てを背中の寸前で止めていく長門
なにか俺の後ろで物凄いバトルが行われていないか?
しかもハルヒの奴、解ってるのかフェイントまで織り交ぜだした。
完全に目的が間違ってるぞ、お前ら。
「クッ!コノ!キョンのクセに!!」
いや、俺は無関係だ。というか俺ならシャーペンを突き刺していいのか?!
「大丈夫、あなたは私が守る。」
いや、ありがたいが声出して大丈夫なのか?!
これなら黙ってシャーペンに刺されたらよかったのではと思った時、
「てやーッ!!」
ハルヒが全力でシャーペンを突いたのだ!
やばい!流石にあれを長門に当てる訳にはいかん!!
と、とっさに俺の身体が動いてしまった。
長門を庇うように右腕をハルヒの机の上に…………!!
「痛ッてぇーーーッッ!!!」
シャーペンは見事に俺の腕に突き刺さった。お前、これを背中に刺そうとしたのかよ!?
「ちょ、ちょっとキョン?!」
刺したハルヒの方が慌ててやがる。なんだ?服にジンワリ染みが……………
「血が出てるじゃない!!先生、あたしキョンを保健室に連れていくから!!」
言いながらハルヒは俺を引っ張って教室を飛び出した。
長門もいつの間にか肩に乗っている。
それよりハルヒ、お前の引っ張ってるのは怪我した方の腕なんだが。
「ごめん!怪我人が出たの!!」
勢いそのままに保健室に飛び込んだハルヒは保険医が居る事もまったく気にせず、
「ほら早く上着脱いで!シャツは腕だけ捲くるわよ?」
てきぱきと俺の腕を出すと、
「あ、でも思ったより深い傷じゃないわね…………………よかった…………」
そう言いながら俺の腕の傷を消毒した。
「薬は………これね?」
傷薬を塗ってガーゼを当てて、包帯を巻く。惚れ惚れするくらい見事な腕だな。
「はい、お終い!!まったく、団長によけいな手間かけさせるんじゃないわよ。」
ああすまんなって、お前が原因じゃねえか。
「だってキョンのくせにあたしが呼んでるのを無視ばっかしてるからじゃない。」
なんだそれ。
「でも…………あたしもつい力入っちゃって………………ごめん。」
なんと、あのハルヒが素直な謝っている。いつもそのくらいならかわい…………なんでもない。
ただこいつのこんな暗い顔を見るのはどうにも調子が狂うな。
俺は包帯の巻かれた腕を上げ、
「まあこれだけやってくれたんだ、勘弁しといてやるよ。ありがとな、ハルヒ。」
「な?なによ!団員の怪我の処置一つできないなんて団長の名折れだから仕方なくやってあげたんだからね?!勘違いしないでよ、大体そんなの唾でもつけときゃ治るんだから!!」
はいはい、おっしゃるとおりですよ。本当に大げさな怪我でもなさそうだしな。
「ま、まあ万が一変なバイキンとか入ってあんたが休んだりしても、あたしの寝覚めが悪いっていうか雑用がいないと不便だからとか…………そんなんだから!!」
わかったよ、せいぜい気をつけとくさ。
「そ、そう…………なら保健室で少し休んどきなさい!あたしも居るから!」
いや、腕の怪我ぐらいで大げさ過ぎだろ。教室に戻るぞ。
「…………ほんとに大丈夫?」
おう、ただシャーペンもほどほどにしといてくれ。
「う………わかったわよ…………」
こうしてうやむやに2時間目も終わった。
3、4時間目は特に何も無かった。
さすがにハルヒもおとなしかったしな。ただ古泉にバイトが無かったかは気になったが。
しかし長門まで黙り込んだのは参った。もうハルヒの側を向くこともなく、ただ俯いてしまったいる。
やれやれ、こっちにもフォローが必要だな。
結局予想通り一睡も出来ずに昼休みを迎える事となったんだ、まったくもって悪い予想はよく当たるよ。
さて、こちらのお嬢様のご機嫌伺いといきますか。
昼休みのチャイムを聞きながら俺はそう考えていた……………