『SS』ちいさながと 12

「………………」
この三点リーダ長門ではない、俺だ。
長門にあられもない姿を見られたのだ、動揺しない訳がない。
自分も見たからお互い様というのは無しだ、俺は不可抗力だったが長門は間違いなく確信犯だぞ。
とにかく俺は部屋に逃げ帰り、頭を抱えるしかなかった。
「大丈夫?」
誰のせいだよ。
「…………」
ああいかん、長門まで黙り込んでしまった。わずかに俯いたその表情に悲しみを読み取ってしまったのは俺の気のせいじゃないと思いたい。
俺は笑って長門の小さな頭をなでてやった。
「すまん、お前だって恥ずかしかったよな。あー、おあいこってことでいいか?」
なにがあいこなんだかよく分からんが、長門にあんな顔させるよりはいいだろう。
「私はあなたになら見られても構わない。」
いや、せっかく上手く締めようとしてるんだから蒸し返さないでくれ。
「…………………そう。」
そうだよ。
さて、もう寝ようぜ。大体風呂も遅かったし、なにより疲れたんだ。
「待って。」
どうした、まだなにかあるってのか?
「課題が終わってない。」
課題?宿題があるのか?でもお前は何も持ってないじゃないか。
「あなたの。」
俺のか。俺はいいんだ、朝一で国木田っていう頼みの綱があるからな。
弁当のおかず一品なら安いもんさ。
「私がいる。」
お前が?
「あなたは私と課題をするべき。」
まあお前ならなんでもないことだろうしな、わかったお願いするよ。
こうして俺は長門と宿題をするはめになってしまった。
いい加減眠いんだが。
「頑張って。」
あれ?なんかやる気が。長門に何かされたんだろうか。
課題は意外と簡単に終わった。
とはいえ俺一人ではとても太刀打ちできる話ではなく、長門の指導が的確そのものだったからだろう。
「あなたはやればできる。」
ありがとよ。しかし俺が課題をやってきたなんてハルヒの奴どんな顔しやがるだろう…………
『なによ、あんたやれば出来るじゃない!!』
うん、言われそうだ。
「………一体誰と勉強してたのかしら?」
ああ、言い出しかねんな。ということは俺は痛くも無い腹を探られ、痛い目を見るのか。
「私と一緒だったから大丈夫。一人ではなかったと言える。」
何一つ大丈夫じゃないぞ?なにより人の心を読んでハルヒのセリフを言わんでくれ。
「私と一緒はいや?」
ぜんぜんそんなことはない!むしろ課題が終わって感謝したいんだぞ?
「………………いい。」
ほんの少し嬉しそうな長門を見ると、たまには真面目に宿題もいいものかと思えてくるから不思議だね。
「さあ、今度こそ寝るとするか?」
「する。」
じゃあ長門の寝床を……………って長門さん?何故俺のベッドにいるんですか?
「寝るため。」
そうだな、だから何故俺のベッドなんだ?
「私のサイズならあなたに負担をかける心配はない。」
そういう問題じゃなくてだな?
「いや?」
いやじゃないけどな?こう若い男女が一緒に寝るってのが………………
「あなたを信じている。」
あ、そうですか。そう言われたら俺だけが疚しいみたいじゃねえか。
「………………来て。」
だからそれがいかんのだって!!
などと言ってても仕方が無い。俺はベッドに上がり、布団にもぐり込んだ。
「………………なんでパジャマなんだ?」
さっきまで制服だっただろうが。しかもちょっと大きめをダブつくように着こなしてやがるとは。
「寝るため。」
そうだったな。どこから取り出したのかはもう聞かんぞ。
「お泊りセット。」
だからそのカバンはどうしたんだって?!というか泊まる気満々だったのか!!
「…………………そうか。」
もうつっ込む気にもならん。
「じゃあ電気消すぞ?おやすみ。」
「おやすみなさい………………」
この後、ドタバタしそうな予感があったのだが、意外なほどに二人とも寝付きがよかった。
やはり疲れていたんだろう。長門の寝顔が見れなかったのは残念だったがね。