『SS』ちいさながと 11

食事を終えたのと同じタイミングでおれの部屋のドアが開き、妹が飛び込んできた。
キョンくーん、お母さんがおふろはいりなさいってー。」
そうか、だがノックをしろとあれだけ言ってるだろ?
まあ長門はまだステルスモードのはずなので大丈夫だとは思うが、万が一ということもある。
当の長門は妹の急襲などお構いなしに絶賛正座中だが。いや、もう少し驚くというか気を回してくれてもいいんじゃないか?
すると妹の奴め俺の机の上を見て、
「あー、キョンくんだけなにかたべてるー。」
目ざといな、しかし長門は見えてないようだ。
と、妹が机に近づく。おい、勝手に部屋に入るな!
「いっぱい食べたんだねー。」
そうか、晩飯は食ってるもんな。
「なんか誰かいたみたいだねー。」
なんだ?妙に鋭いことじゃないか?まさかと思うが長門が見えてるとか言い出すなよ。
「あたしもたべたかったのにー。」
子供はこんな時間に食べちゃいけません。寝れなくなるぞ。
「えー、だってキョンくんは食べてるのにー。」
俺はいいんだよ、なにより食ってないしな。
「へへへー、夜遅くにごはんたべちゃうと太っちゃうよー。」
心配いらん。まだそんなに気にするほどでもないし、成長期の男子を舐めるなよ。
なによりも俺はほとんど口にしてないんだから大丈夫なんだ。
「ふーん、はやくおふろはいってねー。」
そこまで言ったら風のように妹は去っていった。
その前にチラッと机を覗いたその先に長門がいたのは偶然だと思いたい。
しかし風呂には入らんとな、さすがに汗は流したい。ここは両親の心遣いに感謝しとかないとな。
俺は階段を降りて風呂場へと向かう。このときに後ろを振り向かなかったことを後悔することになる。
脱衣所で服を脱ぎ、風呂場へ。こんなとこの描写なんて誰もいらないだろうしな?
で、シャワーで髪を洗って適当に体を洗ってから湯船に浸かる。
「くああーっ…………!」
つい声も出ちまうってもんさ。
湯をすくって顔を洗う。ああ、生き返るねチキショウ。
「ふう…………」
足を伸ばして一息つくと、さっきまでのドタバタが嘘みたいだ。
「あー、生き返るぜ……………」
「………………………そう。」
そうさ、やっぱ風呂はいいもんだ。
「全身の緊張感が緩和している。」
それが風呂ってもんさ。
「私も心地よい…………」
そうか、よかったな。
ん?俺は誰と話しているんだ?!
そーっと横を見ると!!!!
「なあ?!お、お、お前?!なにしてんだよっ!!!」
そこには小さな長門が風呂のふちに乗りかかり、湯船に浸かっていたんだ!!
いや、すぐに目をはなしたぞ?だから、白い綺麗な背中とかそれからゆるやかに伸びた腰のラインとか丸いそのなんというか、だから見てないんだって!!
俺は長門から目を離したまま、
「い、いつの間にいたんだよ?」
いかん声が勝手に上ずる。
「最初からいた。」
「いや、ちょっとは遠慮しろよ?!」
「何故?私にも入浴は必要。しかもこの体格では入浴時の補助は不可欠。」
「確かにそうかも知れんが………………」
「この方法が一番効率的。信じて。」
ああ、信じるとも。お前の言うことだからな。だが、その格好はいかん。
「何故?入浴時には全裸になるのが基本。」
そうだな、水着なんて邪道だ。でもいけません。
「どうして?」
くそう、こいつ解っててやってないか?俺は目を逸らしたまま、
「あのな、仮にも年頃の男女が一緒に風呂なんて入るもんじゃないんだぞ?お前だってそのくらい解るだろ?」
「………………これは緊急措置。」
こいつ、そのフレーズで押し通す気だな。
「何より現在のサイズではあなた無しでの入浴は不可能。あなた無しでは駄目。」
それはそうなんだが、言い方が何かおかしくないか?
「あなた無しでは生きていけない。」
まて、やっぱりおかしい!!長門の方を向けないから判らんが、どんな顔して言ってやがるんだ?!
「………とにかくタオルでも巻いてくれないか?」
「そのようなサイズは持っていない。」
なんでこんな時だけ融通がきかんのだ、こいつは。
おまけに横を向きっぱなしで首が痛くなってきた、なんで風呂の中でこんな思いをしなくちゃならんのだ?
「頼むから再構成でもなんでもやってくれ、このままじゃ首がもたん。」
「こちらを向けばいい。」
だからそれが出来たら苦労はせん!!
「……………………………いくじなし。」
なにか小声で言ってたようだが多分例の呪文だな。
「もういい。」
その声で俺がようやく首を戻すと、そこにはバスタオルを胸まで巻いた長門が風呂のふちに手をかけたまま湯船に浮かんでいた。
それでもかなり目のやり場に困るのだが、さっきよりかはマシだとしておく。
「なあ、お前の大きさでこの風呂桶はでかすぎるんじゃないか?」
目の前でプカプカ浮かぶ長門に聞いてみる。正直、もう上がりたい。なんというか色々のぼせてるんだ。
「大丈夫、なんでもない。」
そうかい。
なら俺は上がらせてもらいたいんだが。お前だけでゆっくり入ってもらっても構わんぞ。
「だめ。」
やっぱりか。しかしいつもの俺からすればかなりの長風呂なんだぜ?
「湯あたりする?」
よく知ってるな。
「では上がる。」
と言うと長門は風呂のふちに手を置いて一気に………
「あ。」
滑って風呂の中にはまった。なんとベタな。って!!
「おい!大丈夫か、長門!!」
風呂の底まで沈む前に両手でキャッチする。そのまま風呂から上げて、えええっ?!!
上げたとたんに水圧だかなんだかで長門のタオルがはだけてしまって!!
やばい!真正面からバッチリ!!0,5秒で目を閉じたが!!
いかんいかん!俺の脳内フォルダには刺激が強すぎる画像が焼きついてしまった………
「あー、長門。とりあえずは無事か?」
目をつぶったままだが長門の安否は気になるからな。
「…………………………もう大丈夫。」
その口調にいつもの落ち着きを聞き取った俺は恐る恐る目を開けた。
そこにはきっちりタオルを巻いた長門が何故か正座していた。俺の手には何も動いた感触などなかったのだが。
「私の不注意だった、あなたに迷惑をかけてしまった。ごめんなさい。」
なんとあの長門が素直に頭を下げて謝ってきたのだ。あくまで表情には出さないが。
しかしどうもいつもの長門らしくないようで、それは小さくなったからなのか?
疑問は尽きないが、とにかくお前が無事ならいいんだ。
「とにかく上がるか。」
1ミリの頷き。どうやら本当に大丈夫らしい。
こうしてなんとも疲れた風呂が終わった。
「今回は私の落ち度。以後気をつける。」
そう何度も謝らなくてもいいぞ。というより、以後があるのか?
それに答えることなく、いつの間にかいつもの制服になっていた(ちなみに俺は長門に背を向けてもらい、スウェットに着替えた)長門は、
「………………………見た?」
などと言われた。
大丈夫だ、見てないぞ!すぐに目はつぶった!!大丈夫なんだからな?!
「…………………うそつき。」
はい、すみません。記憶なら消去してください。
「大丈夫、私も堪能した。」
は?どういう…………………と、俺は長門がいることに途中まで気がつかなかったワケで。
「うわあああっっ!!」
「どうしたの、キョンくーん?」
「な、な、な、なんでもない!なんでもないんだーっ!!」
俺はなにか居たたまれなくなり、脱衣所を飛び出した。
「大丈夫、あなたは自信をもっていい。」
言わないでくれえーっ!!!