『SS』ちいさながと 6

俺達は今、駐輪場にいるのだがここに来るまで誰にも出会わなかったのは僥倖と言えるだろう。
なにしろ見た目には若い男子が女の子の人形を肩に乗せて歩いてるんだからな。
まあ長門のことだ、うまいこと情報操作とやらをしてくれたのかもしれん。
「ただの偶然。」
マジでか?
「マジ。」
それはちょっとな……………………うむ、そういやここで人に逢う事なんか滅多にないもんな。そういう事にしとこう。
それよりも問題なのは、
「お前、このまま肩に乗ってるつもりか?」
おれは自転車を出しながら長門に尋ねる。なにか独り言を言ってるようにしか見えんが。
「大丈夫、あなたがスピードを出しても落ちる事はない。」
いや、誰もそんなことは心配しとらん。
たしかに風が吹いてたら吹き飛びそうな大きさではあるんだが、それを言ったらここまでの間に俺は何回長門を落っことしてる計算になるんだ?
「正確には38回、あなたの動作により私は落下の可能性があった。」
そりゃすまん。
「いい、想定内。」
というかそこまでして俺の肩に乗る必要があるのだろうか?なんならポケットにでも入ってもらえんもんかね?
「ここでいい。」
お前はいいかもしれんが俺は困るぞ。
「訂正する。ここがいい。」
オーケーわかった、どうやら小さなお姫様は眺めが良いことをお望みのようだ。
「しかしさすがにこのまま肩にお前を乗せて走るってのは見た目にも、周囲の人たちにとっても心臓に悪いと思うぞ。」
肩に人形(しかも美少女だ)を乗せて、それに語りかけながら自転車を走らす高校生か。
この時間帯と相まって、間違いない変態だな。それに、万が一ハルヒの耳にでも入ればどんなことになるのか想像もつかん。
「と言うわけで我慢してもらえないか?」
「わかった。」
即答かよ。だがありがたい。
と、小さな長門の口が動いた。これは、例の呪文か?!
「……………………私の周囲にあなた以外に目視できないように不可視フィールドを展開した。」
なんだって?
「現在ステルスモード中。」
あれか、つまり俺以外には見えないってやつか。
「そう。」
何故にここまで俺の肩に拘ってんだ、長門は。
しかしもう俺には反論の余地はない訳で。
「そうか、なら家まで落っこちないように気をつけといてくれ。」
「了解した。」
肩に長門が乗っているので、一応気をつかいながら俺は自転車を漕ぎ出した。
「…………………………あなたと二人乗り………………」
俺の右耳に入った小さな呟きは、空耳にしてはやけにはっきりと聞こえた……………………