『SS』『ツンデレ議員 安部五十鈴!!』第0話中中編

なんだと?!ならとっとと帰らせろ!お前を待たされたあげくに迎えがあったとと思えば一人で歩いて帰れとはどういう了見だ!
これは文句の一つも言ってもおかしくないだろ?いや流石にカチンときた。
すると安部の奴はニヤリッ(そう罠に掛かった獲物を見つけたハンターの目だった)と笑い、
「へー、ならアンタはワタシと卑巫魅ちゃんと一緒に帰りたいんだー。」
とぬかしやがった。ん?そういう意味なのか?
「それならー、車の後部座席で三人で座る?なんならアンタが真ん中でいいわよ。」
ここで俺は気付いた。ぬうっ!これは間違いなく罠だ!
確かに、見た目だけなら十二分の美少女二人に挟まれて車に乗って家まで帰る、という画は正に男のロマンチックを感じるものだが!
だがな、安部よ、ここでわかりやすいくらい動揺をするほど俺はチキンではないのだよ。残念だったな。
俺は努めて冷静に模範解答を導いてみせるのさ。
「そうか、なら俺は助手席に座るから乗せてってもらうわ。」
これでどうだ!完璧だぜってなんでこんなことに意地になってんだか。
しかし敵もさるもの、
「残念ね、助手席は卑巫魅ちゃんの荷物でいっぱいなの。ねぇ、卑巫魅ちゃん!」
なにぃっ!それなら荷物をお前らのとこに動かせばいいじゃねえか?!
「ごめんな〜英くん〜それに〜もともと〜助手席はな〜お付きがおらんかったら〜誰も座ったらあかんのやて〜安全がなんたら〜運転手のことやら〜あるゆうてな〜」
そうか、流石はセレブだ。セキュリティは万全にか…………まあ、安部を乗せる時点でセキュリティも何もないとは思うんだが。
「さあ、アンタはどうすんの?ワタシたちと一緒に帰りたいの?それともおとなしく歩いて帰る?」
追い討ちをかけるような安部の笑顔。鬼か、このやろう。
ここまできて断れば、こいつのことだ、人のことをチキン野郎扱いだろうし、迂闊に誘いに乗ればエロキャラ呼ばわりされそうだ。
さあ、どうする?どーすんのよ俺?!
と、ここでニコニコ笑いを崩さなかった麻泉に変化が起こった。
ニコニコがクスクスと声を上げて笑い出したのだ。
どっちにしろ笑ってるな、こいつ。というか笑い顔以外を見たことない気がしてきた。
「も〜あんま〜英くんを〜からかわんときな〜五十鈴ちゃ〜ん〜」
はい?からかわれてるのは確かだろうが、そこまで笑うことか?
なんというか、馬鹿にされてる感たっぷりな雰囲気に不機嫌極まりない俺の表情を見て、さすがに悪いと思ったのか麻泉が説明してくれた。
ただし、笑いながらなんだがよ。
「あんな〜ウチと〜五十鈴ちゃんに〜用があるんは〜ほんまやねんけどな〜それやと〜英くんがな〜一人で帰らな〜あかんやんな〜で〜五十鈴ちゃんが〜可哀相いうてな〜」
すまん、もう少し話をまとめてくれ。いや、せめて句読点が入るように頼む。
このまま麻泉空間のペースに巻き込まれるかと思ったが、それを破るようにリムジンの中から声が聞こえてきた。ん?まだ誰かいたのか。
「で、僕が麻泉さんに呼びだされたんだよ。」
リムジンから一人の男が降りてくる。
その様相は、俺より背は低いが軽く茶色に染めた髪と爽やかな笑顔の好青年って、てめーの顔は見飽きてるわ。
あまりに顔見知りというか、この場にいて当然のはずのそいつに俺は仕方なしに声をかける。
「チュータか?なんでお前が朝泉の車からでてきやがる?」
「だから、智則の帰りの話し相手だって。」
チュータこと『高仲 宙太郎』(たかなか そらたろう)は俺や安部のクラスメイトであり、俺とは小学生時分からの腐れ縁である。男についてダラダラ語りたくはないんで以上。
「いや、断れよ。野郎同士でトボトボ歩いて帰るなんざ馬鹿馬鹿しいだろがよ。」
気心が知れてると、ついつい口も悪くなる。
それはチュータも同じことなんだが。あいつ、笑いながら
「なら安部さんとなら帰りたかったのかい?」
と切り返しやがった。
むっ?そういう訳ではないが………選択肢があいつと帰るか一人かしかないと思ってたのは確かかもしれん。
そんな俺の複雑な心境を読みきったように、
「残念だったわね!ワタシと一緒に帰れなくて!」
畜生、安部のやつを調子に乗らせちまった。ただ、その後何故か顔をそらし、
「そ、そりゃワタシも二人で歩いたりしてもいいかな…とか…用事ってもたいしたことないか…とか………でも卑巫魅ちゃんと前から約束してたし……」
くそう、横を向いて見上げるとは勝ち誇ったつもりか?ごにょごにょと俺をからかった余韻に浸りやがって。
安部に何か負けたような気分を気を取り直さねば。俺はチュータに向かい、
「でも良かったのか?思いっ切りあの二人に巻き込まれてるが。」
とにかくせっかく現れた男性キャラだ、味方につけてあの女性陣になにか一言いってやろうじゃねえか。
しかしチュータのやつは爽やかに笑みを浮かべながら、安部たちを眺めてるだけだ。そしてその立ち姿はなかなか絵になっている。
こいつの立ち振る舞いって同性から見たらカッコつけに見えるかもな。
だが、俺はこいつの本質を知ってるから何も思わん。多分他の奴らもそうだと思うな。
「いいよ別に。暇だったのは確かだし、買い物ついでにリムジンにも乗れたし。」
いきなり日和見かよ。だがそう考えるとチュータにしたら得した気分だろうな、隣は麻泉だし。
「でしょ?それに………」
それになんだ?チュータは二人に聞こえないように小声で話しかけてきた。
「あの二人が言い出したことに逆らえる?僕は無理。」
まあお前には無理だろうな。
俺か?俺も麻泉に逆らって下手に社会的に抹殺されたくない。安部は別だが。
「なら安部さんと一緒に卒業式なんか行かなきゃいいのに。」
仕方ないだろ、勝手に出席させられたんだ。ドタキャンなどやったら内申点下げられそうじゃねえか。
するとチュータは、
「そうだね、そういうことにしとくよ。」
なんだ、その言い草は。笑い方も変えるな、流石にムカつくぞ。
そんな俺達をよそに、安部と麻泉は話も終わったのか車に乗り込もうとしていた。ほんとに用事があるんだなっていうか、俺達はマジで置いてけぼりかよ!