『SS』『ツンデレ議員 安部五十鈴!!』第0話後編

「ほんなら〜二人とも〜気ぃつけて帰ってや〜」
なにか釈然としない俺に向かい、麻泉がひらひらと手を振る。
安部は……まだそっぽを向いてやがる。
「さて、向こうも車を出したいみたいだし僕らも行こうか。」
チュータに促されたが、何か釈然としない。
つか、からかわれたままなのは性に合わん。
なので俺は安部に声をかけた。
「おい、安部。」
「なによ?」
なんで不機嫌そうなんだ、お前が。
しかし俺は爽やかに笑ってやると、
「今日は誘ってくれてありがとな。」
「へ?」
お、キョトンとしてるな。まあ意外だろうしな。よし、畳み掛けるか。
「まあそれなりに考えるもんもあったぞ。お前の送辞もなかなかだった。」
「え?あ、あ、ありがと………」
ははは、朱くなってきたよ、わかりやすいやつだな。
ここで『なーんてな!』とか言って安部が目を白黒させるってのが俺の描いたシナリオのはずだったのだが、どうやら俺って人間は墓穴掘りが趣味だったらしい。
ちょっと違うな。真っ赤な安部を見てたら、こいつが俺を連れてきたのも悪い気がしなくなってきた。
そうだな、こんなコイツを見られるなら睡眠を削られても文句を言っちゃいかんってな。
だから俺の口をついて出た言葉はシナリオにはない、まったく別のものだった。
「来年は俺達の番だな。その時も会長は押し退けてでも、お前が答辞を読んでやれ。なんだったら会長職なんかどうだ?」
おいおい、やばいぞ。なんてこと言っちまったんだ、俺!
見る見ると安部の顔色が変わってくる。安部の瞳を見ろ、あの太陽も裸足で逃げ出す輝きを。
「で、そんときは四人で帰るんだ。車なんか野暮だぜ?パーッと打ち上げにでもいこうじゃねえか!」
あーあ、言っちまったよ。間違いのない地雷発言を。
どうだ、この爆発しそうな笑顔の安部、いつもより二割増しの爽やかチュータ、変わってないようでニコニコニコぐらいになってる麻泉の面はよ。
こいつらに間違いなく火を点けたのは俺だ。ああ、確信犯の自爆だぜ。
もう通用しねーだろうな、『なーんてね!』は……………………ハア……
そして点火した爆薬は必ず破裂するんだよ、と思ってたらやはり真っ先に安部が爆発した。
「当ったり前よ!!盛大に学校生活の最後を飾って、全校生徒を感動の嵐にのめり込ますんだからね!!それより、四人なんて簡単に言ってるけど、アンタが無事に卒業できるかどーか怪しいってもんよ!?」
なんだのめり込ますって。それに失礼なことをぬかすな、自慢じゃないがそんなに成績は悪くないんだぜ。お前らが異様にトップに居座ってるだけだ、平凡が一番なんだよ。
「ふん、どうだか。高仲くんの力を借りないでそのセリフを言ってみなさい!」
それは言えん。俺のライフラインをあっさりと見抜くな。
「いや、智則は元々できるんだよ。決定的にやる気がないだけなんだ。」
チュータ、ナイス蹴落とし!まったくフォローになってねえ!
たしかにお前のノートと勘だけで乗り越えてる俺が偉そうなことを言えるわけではないがよ。
「さあ!なら高仲くんに日頃のお礼でもしっかりやりなさい!卑巫魅ちゃん、私たちもとっとと行くわよ!運転手さん、ガーッと飛ばしちゃって!」
おいおい、自分の機嫌がいいだけでもうこれかよ。相変わらず無茶苦茶だよ、こいつ。
そんな勢いの安部にも麻泉は我関せずでまたひらひら手を振り(というか、こいつはずっと手を振ってたような)、ガーッとではなく車は静かに発車した。
安部、そんなに窓から身を乗り出して手を振るな。
恥ずい、なにより危ない。
「いやー、すごい告白だったね。一緒に卒業式を迎えようだっけ?」
チュータうるさい。というかお前らも一緒だっつうの。
「いや、僕らまで本当にいていいのかとね。」
当たり前だ。四人でって言ったのが聞こえなかったか?
「はあ、安部ちゃんも大変だね。」
何故だ?こんなこっぱずかしい事言うはめになった俺の方がよっぽど大変だし可哀相だぞ。
「自分で言い出したんじゃないか。」
まったくだ、どうも安部のやつがいると自分のキャラがどんなもんなのか悩むぜ。まるで熱血青春キャラじゃねえか。
「それが智則の本質じゃない?」
な訳あるか。それならもっと楽しい学校生活を送ってるはずだ。
「あれ?安部ちゃん達といて楽しくないなんて言うのかい?」
む。俺はあいつに振り回されてるだけだ。
しかし、あいつに振り回されてなければ少なくとも朝泉とかと話なぞしてない訳で……………クラスももっとしらけてたのかもしれず……………むう、うまく言い返せん。
結局、苦虫を噛み潰したような顔の俺を見て、
「さて、そろそろ僕らも帰ろうか。」
とチュータが言い出した。そうだな、グダグダ考えるのは性に合わん。
するとチュータのやつがその本性を現した。
「ところで帰りにアニ〇イト寄っていい?」
わかったよ、このA-BOYが。あいつらの前で猫被ってるつもりだろうが、もうとっくにばれてるからな。
言わないのが友情ってもんだ。いや、俺達はお前のカミングアウトを待ってるからな。
爆笑で答える準備は万全なんだから。
「やれやれだ、昼飯代は出るんだろうな?」
「いや、多分僕が借りる側かと………」
「ふざけんな!飯は最低ワリカンだ!というか貸さんからな!!」
くだらない馬鹿話をしながら、俺達は桜が早くも散ろうとしている道を歩きだした……………………………………世の中は平和なもんだったんだよ、この時はな。

ツンデレ議員 安部五十鈴!!』第0話終わり!